実父の性虐待、精神を破壊…母親に被害話せず「孫の顔が見たい」と言われ…

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 「夜中に目が覚めるとお父さんの顔が横にあって…。それがすごく嫌だった」。10代後半のアイさん=仮名=が、里親のカズコさん=同、50代=にこう漏らしたのは昨冬のことだった。

 幼少期に親を亡くしたアイさんは、小学生になったころ親戚の夫婦に引き取られた。養父から性虐待が始まったのは、小学校高学年のとき。夜に体を寄せてきて「(セックス)させなかったらたたかれた」。

 回数は週1回ぐらい。殴られるのが嫌で、すぐに終わると思って我慢した。口止め料のつもりだったのだろう。養父はプレゼントを買って来てくれたが、何も知らない義姉たちからは疎まれた。

 「暴力を受けている」と、担任の教諭に打ち明けたのは中学3年のころ。アイさんは児童相談所に保護された。「自分がされていた行為の意味を知り、耐えきれなくなったんでしょう」。カズコさんは少女の胸の内を思いやる。

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 児童養護施設に入所したアイさんは、荒れた。職員を無視したり、突然暴れたり…。集団生活になじまないと判断され、カズコさんの元に来た。

 親元で暮らせない子どもたちを、何人も見てきたカズコさんは言う。「性虐待を受けた子は、みんな精神的な問題を抱えている。身体的虐待の子たちと比べて、信頼関係を築くのが難しい」

 精神科医である久留米大医学部の大江美佐里講師ら専門家によると、幼少期に身内から性虐待に遭うと人格形成が妨害され、対人関係がうまく築けなくなる。被害が長期間に及ぶこともあるため、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状も重くなり、うつ病なども併発しやすいという。法務省の有識者会議は8月、親子など地位を利用した性暴力については新たな罰則を設けるべきとの意見を示した。

 「家族なんかいらない」。投げやりなアイさんを見て、カズコさんは思う。「せめて安心できる家庭のイメージだけでも抱けるようにしてあげたい」

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 家族から性虐待を受けた被害者の多くは、その後も加害者と顔を合わせることになる。

 リカさん=仮名=は小学生のとき、自宅で実父から体を触られ、「気持ちよくしてくれ」と迫られた。そのトラウマから「健全な家族像」を描けず、結婚や出産はしないと決めて、40代まで生きてきた。

 母親には、被害は話していない。知れば、自殺してしまうかもしれないと思う。帰省のたび、「孫の顔が見たい」とあけすけに言われると怒りもわいてくる。

 約10年前。葛藤に耐えかね、父親を問い詰めた。泣いてわびられた。

 「私を育ててくれたのは事実だし、家族がバラバラになるのも嫌。他人が加害者ならば恨めばいいんだけど…」

 家族ゆえに、苦しみが複層的に覆いかぶさってくる。

 

◆性虐待の脳への影響

 福井大の友田明美教授(小児発達学)を中心とした研究によると、子どものころに性虐待を受けた女子大学生の脳は萎縮し、空間認知などをつかさどる「一次視覚野」の容積が平均して18%小さかった。特に11歳までに性虐待を受けた人の萎縮の割合がひどかったという。注意力や視覚的な記憶力の低下などが懸念されるという。友田教授は「残酷な体験のイメージを見ないように脳が適応したためではないか」と分析する。

 

◆幼少時の性虐待、救済に道 成人後の賠償請求認定

 幼少期の性暴力であっても、それを原因とする病気の発症が20年以内なら損害賠償を請求できる-。最高裁が7月、こうした判断を示し、32年前の加害行為に損害賠償を認める判決が確定した。幼少期の性暴力は受けた行為を理解できず、訴えが遅れるケースが多いだけに、「被害救済の可能性が広がった」と関係者の注目が集まっている。

 訴えていたのは北海道釧路市の40代女性。3~8歳のとき親族から受けた性虐待が原因で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、2011年、この親族を相手に損害賠償を求めて提訴した。

 裁判の焦点は、民法上の不法行為に対して損害賠償が請求できる「除斥期間」(20年)の起算点だった。

 加害行為は1978~83年で、ここを起算点とすれば請求権は消滅している。一方、女性はPTSDと診断された2011年が起算点だと主張した。一審釧路地裁は性的虐待とPTSDの因果関係は認めたが、起算点は最後に加害行為があった83年ごろとし、「請求権は消滅している」と訴えを退けた。

 だが、二審の札幌高裁は、女性側がPTSDに加えて主張したうつ病について、06年に発症した「新たな被害」と認定。起算点も06年とし、慰謝料や治療費など計3030万円の支払いを命じた。今年7月、最高裁は親族の上告を棄却、高裁判決が確定した。

 女性の代理人を務めた寺町東子弁護士(東京)は最高裁の判断を「長年声を上げられずにいた被害者に、希望を与える画期的決定」と評価。ただ、「新たな症状が診断されない被害者は救済されない」として、幼少期の性暴力については、除斥期間の起算点を被害者が20歳になった時とするよう求めている。

 性犯罪について、刑法上の時効撤廃を求める声も高まっている。だが、法務省の有識者会議が8月にまとめた報告書は、時間が経過して被害者の記憶が変わり、公判への影響が大きいことなどを理由に「消極的な意見が多数だった」としている。

 

 

=2015/08/30付 西日本新聞朝刊=

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