性暴力の実相・第2部(6) 教育が悲劇防ぐ力に

写真を見る

 「心も体もぼろぼろで、生きている意味が分かりません。何であのとき殺してくれなかったのですか」

 北部九州で起きた集団強姦(ごうかん)事件。10月、法廷で弁護士が被害女性の手紙を読み上げると、被告の母親がすすり泣く声だけが響いた。
 
 22歳の無職の男2人は「きょう、拉致り行こ」を合言葉に町をうろつき、帰宅途中の女性を強引に車に押し込んだ。泣きながら助けを乞う女性を乱暴した。

 「悪いことをしている感覚がなかったから、したんだと思います」

 淡々と弁明する2人に、入院を余儀なくされ病室でリストカットをするほど苦しむ女性の叫びは届いていないのだろう。

 「感情がないよね? 人ごとのようだ」。検察官からは厳しい視線を何度も向けられた。2人には懲役13年と9年が言い渡された。

    ■    ■

 中学高校で性教育の出前授業を行う熊本県合志市の婦人科医池田景子さん(58)には忘れられない少女がいる。歯を食いしばっておえつをかみ殺す表情が、目に焼き付いている。

 十数年前、中学3年の少女が体調不良を訴え医院に来た。妊娠5カ月だった。男に乱暴されたが、誰にも言えなかったという。池田さんにも同い年の娘がいた。つらさが倍増した。

 「この子をめちゃくちゃにした性暴力を絶対に許せない」。この一件以来、年30回程度、中高生に被害の話をし、性暴力の悲惨さを伝えている。

 夫で泌尿器科医の稔さん(58)も中高生に出前授業を行う。性教育の内容は妊娠や出産など女性に偏ることが多いと考え、男性向けの話を意識的に盛り込む。

 10月下旬、熊本県の玉名高で2年生約270人に語り掛けた。「彼女が自ら家に来ても、無理やり性的な接触をすると性暴力になる」。男性の場合、普段から適切に性欲を解消することの大切さを説明する。

 診察の中で、女性をおもちゃ扱いするような男性を見てきた。そんな認識が根付かないよう、少年たちに女性への優しさを持つことの大切さも唱える。

    ■    ■

 子どもに「性」を教えるのは学校だけではない。NPO法人「マドレボニータ福岡」代表の藤見里紗さん(39)は昨秋から親を対象に「子どもへの性の伝え方講座」を開いている。

 性教育の先進校と呼ばれる吉祥女子高(東京)出身。同校の保健体育教諭も務めた。いま、小学校や男女共同参画推進センターで保護者たちに「恥ずかしがらず、子どもたちに性の問題を説明しましょう」と訴える。今年の講演は5回。定員40人の3倍近くの問い合わせがあったこともある。「きちんと性教育を受けていない大人だって不安。しっかり性と向き合う家庭が増えていると思う」と手応えを感じている。

 ネットなどで性があふれる現代。性暴力の病巣は根深い。だが、池田夫妻や藤見さんは口をそろえる。「教育で性暴力は減らせる。そう信じて続けていきたい」

 ◆男子高校生への性犯罪防止教室 愛知県警は2年前から県内の高校1年の男子生徒を対象に、性犯罪防止のための“防犯教室”を行っている。被害者が受ける心の傷の深さやネットなどにあふれる性情報の誤りなどを教え、加害者にならないための対策を生徒に考えさせる。男子高校生をターゲットにした警察の啓発活動は珍しい。10月13日現在で18回実施し、計約2700人が受講している。

 =おわり

=2015/11/16付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]