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性暴力の実相・第3部(2)「組織」相手、募る疲弊

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 北部九州にある病院の職員だった20代のシホさん=仮名=は昨年、勤務先に何度もセクハラ被害を訴えた。その声は、組織の中でかき消されたという。「だれも聞いてくれなかった」。悔し涙がこみ上げる。

 相手は院長だった。あいさつする程度だったのに、携帯に電話をかけてきて「おまえとは相性がいい」と食事に誘ってきた。職員を怒鳴り散らすワンマン。断るのが怖くて1日に何度も鳴る携帯に触れなくなった。相談した上司は「セクハラは勘違いじゃないの?」。取り合ってくれず、仕事に行けなくなって退職した。

 離職票の理由をめぐり、セクハラを認めるよう求めると、再び組織に拒まれた。「院長は(シホさんから)男を紹介してと頼まれたので電話したと言っている」「セクハラを立証できる物はあるのか」

 実はシホさんは、同じような電話に悩まされたと、同僚から打ち明けられたことがあった。「食事に付き合うとホテルに誘われ、断ると現金を渡された」。セクハラは一部の職員には認識されていたという。

 職を失うのが怖くて声を上げられず、言い出せば組織として無視する。そんな構図がまかり通っていると思う。シホさんは心因性の発疹が全身にでき、婦人科系の病気も発症した。

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 セクハラを認めない会社を相手に裁判になるケースもある。

 高級車の販売店で派遣社員として働いていた20代のマキさん=仮名=は歓迎会でカラオケを歌っていたとき、酔った上司に太ももあたりを持って抱き上げられた。スカートがずり上がり、席に戻ると同僚にこう言われたという。「下着が丸見えだったよ」

 この店で接客技術を磨き、航空会社の客室乗務員になる夢があった。飲み会で手を握られても笑って受け流せた。「抱えられただけなら我慢できたかもしれない」。みんなに下着を見られたと思うと糸が切れた。

 吐き気や頭痛が止まらず、仕事に行けなくなった。弁護士を通して会社と話し合いを持ったが、セクハラに関して意見は合わず、販売店や上司に慰謝料を求めて提訴した。

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 販売店は調査会社に依頼して、社員から聞き取りを行った。「丸見え」と言ったという同僚は、調査会社には「見えてない」と証言。報告書は、マキさんの訴えを否定する内容だった。

 裁判所は昨年末、抱き上げた行為をセクハラと認め、上司や会社に約30万円の賠償を命じた。ただ、すべてが認められたわけではない。下着に関しては、同僚の証言は信用できるとして、マキさんの訴えを退けた。

 「組織」対「個人」の争いになることが多いセクハラ。組織を相手に疲弊したマキさんには、夢に向かう気力がまだ戻らない。


 ◆企業のセクハラ防止義務 男女雇用機会均等法は、企業にセクハラの防止措置を義務付けている。厚生労働大臣指針は事業主への10の措置を示しており、(1)セクハラへの対応方針の明確化と周知、啓発(2)相談窓口などの体制整備(3)発覚後の迅速な対応(4)相談者の不利益な取り扱い禁止-など。これらの措置を取らなければ、厚生労働省や各都道府県労働局が指導、勧告を行い、是正がなければ企業名が公表されることもある。

=2016/03/17付 西日本新聞朝刊=

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