性暴力の実相・第3部(4)無自覚な男性責任転嫁

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 東京の日本料理店で研修に入って3日目。板前のリョウコさん=仮名=は、並んで客を見送った後、店主の男性から突然、胸を触られた。「ありえないです…」。そんな言葉を店主は気にも留めず、さらにリョウコさんに、体のことなどを聞いてきた。

 だが、強く抵抗できない理由があった。自らの売り込みもあって、福岡に出す新店舗の店長候補としてスカウトされ、店主のもとで研さんを積んでいた。料理やもてなしを教わる身。競争が激しい和食の世界で、20代の若さでつかんだ異例のチャンスだった。

 セクハラ行為はエスカレートした。調理場の陰で正面から抱きしめられ、額にキスされた。首筋に顔を近づけられ「良いにおいがするな」。ひざまくらを強要されたり、尻をわしづかみにされたり…。

 2週間で神経性胃炎を患い、夢を諦めた。セクハラを知った友人が問い詰めると、店主はこう釈明した。

 「ちょっかいだ。冗談みたいなもの」「(客から飲まされた酒で)酔って、ノリでやっただけ」

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 東京都職員としてセクハラ相談に携わり、退職後は「職場のハラスメント研究所」(東京)の代表理事を務める金子雅臣さん(72)は「加害者には立場や力関係の違いを自覚できていない人が多い」と指摘する。

 リョウコさんの場合、研修中、店主は「胸を触るくらい普通」「別の女性スタッフは抵抗なんてしなかった」と言ってはばからなかったという。

 「なぜ自分がセクハラをするのか、加害者は深く考えようとせず、相手に責任を転嫁する傾向もある」と金子さん。リョウコさんが弁護士を通じて慰謝料を求めた際、店主は「許してくれていたはずだ」と言い、最後は「やっていない」と態度を翻した。

 新規店は一昨年、福岡にオープンし、別の女性が店長に就いている。いまもセクハラがあっているかもしれないと、リョウコさんは思う。

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 女性から受け取ったメールを男性側が勘違いしてセクハラが始まるケースも少なくない-。九州にある労働局のセクハラ相談窓口の担当者は分析する。

 ある女性は、仕事の打ち上げで上司に食事をごちそうになり、メールでお礼を伝えると誘いのメールが何通も届くようになった。「社交辞令にしか受け取れないメールなのに、絵文字などを拡大解釈して『好意』にとらえていた」と担当者は嘆息する。

 男性側の無理解や勘違いなどから、なくならないセクハラ。大阪大の牟田和恵教授は「性暴力だ」と断言する。「受ける側に問題があるのではなく、仕掛ける側の問題」。多くの人にとって、人ごとではない。

◆セクハラ処分の訴訟 セクハラ行為で懲戒処分を受けた加害者が、処分の無効を求めて企業などを提訴する事例が近年目立っている。最近では、大阪市の水族館の男性管理職2人が減給などの処分の取り消しなどを求めた裁判で、最高裁が2015年、「処分は妥当」との判断を示した。セクハラ問題に詳しい大橋さゆり弁護士(大阪)は「コンプライアンス(法令順守)の観点から、企業サイドも(処分を取り消せず)裁判で争う時代になった」と指摘する。

=2016/03/19付 西日本新聞朝刊=

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