性暴力の実相・第4部(2)カリスマ指導者が暴走

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 ただ強くなりたくて選んだ高校の柔道部は、暴力に満ちていた。20代になったミク(仮名)の母校は、中日本のある強豪校。全国大会常連まで押し上げた「カリスマ指導者」に、選手も保護者も異を唱えることはできなかった。部員への強制わいせつ事件で監督が逮捕されるまで-。

 中学時代に県大会で活躍したミクはスポーツコースに進学、一軒家の寮に40代の監督と女子部員数人で暮らし始めた。「弱い選手でも良い成績に導く」と県外まで鳴り響いていた監督の暴力に、すぐに震え上がった。

 エアコンの冷房と暖房を入れ間違えただけで、びんたが何発も飛ぶ。練習の内容が悪いと寮で正座させられ、殴られ蹴られる。目の周りを骨折した仲間もいたという。

 「これが当たり前。耐えないと強くなれない」。監督の指導方法を保護者たちは信奉し、実績があるだけに学校側も黙認した。顔にあざができていたミクは、母親にこう言われた。「助けてあげられなくてごめんね…」

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 暴力は徐々に性的な色を強めていった。

 熊本県阿蘇市で行う夏合宿、バスの中で監督はある競技の有名女子チームの話を切り出した。「あいつらは寝るときも風呂に入るときも監督と一緒や。心が通っとるから強い」。そして「強くなりたいやつは俺と一緒に風呂に入れ」。

 合宿中、連れて行かれた混浴温泉で先輩や後輩は次々に服を脱ぎ、全裸の監督の待つ湯船に向かった。どうしてもできなかったミクは、監督から「だからおまえは駄目なんだ。言うことが聞けないやつは出てけ」と怒鳴り上げられた。入浴した部員としなかった部員の間に溝ができ、横暴な行為に団結して抗議することもできなかった。

 部員の中には、股関節のテーピングをするためとズボンを脱がされて下半身を触られたメンバーもいた。

 密室の寮では、さらに異様なことが起きていた。監督に部屋に呼び出された女子部員2人は、「俺の前でどちらが恥じらわずに脱げるかやってみろ」と告げられた。レギュラーだった1人は部屋に残ったという。

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 「生徒は『見捨てられるかも』『レギュラーになれないかも』という不安から先生に逆らえず、指導名目での体罰やセクハラが繰り返される」

 運動競技に潜む性暴力について問題提起を続けているスポーツライターの山田ゆかりさんは、先生と生徒の主従関係が部活動ではより強く表れると指摘する。ある競技の中学生の県選抜合宿では指導者によるメンバーへの「全裸マッサージ」が慣例化していたといい、こうしたケースは氷山の一角という。「カリスマをつくり上げている学校や保護者、メディアにも責任がある」

 ミクたちを苦しめた監督は数年前、別の女子部員の体を触ったとして逮捕され、有罪判決を受けた。「抵抗したら、もっとひどいことをされると思った」。裁判での被害者の証言に、ミクは共感し、震えた。

 スポーツでのセクハラ調査 大阪府立大の熊安貴美江准教授(スポーツ社会学)らが2007~08年、国体強化選手など女性選手148人に男性指導者から受けたセクハラ行為などを聞いたところ、あいさつで触る62.8%▽マッサージで触る48.0%▽いやらしい発言44.6%▽2人きりの食事に誘う22.3%▽更衣室に入る9.5%▽合宿で同じ部屋に泊まる4.8%▽恋愛関係4.7%▽性的関係3.4%-だった。また、全国21の大学などの学生を対象にした調査では、スポーツと関わりが深い女子学生ほどセクハラ行為に比較的抵抗感が薄いという結果も明らかになっている。

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=2016/07/20付 西日本新聞朝刊=

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