性暴力の実相・第4部(3)居直りが生む二次被害

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 「教師によって娘がセクハラを受けた」と聞かされた40代のタカマツ夫妻(仮名)は二重、三重の苦しみに襲われた。

 数年前の夏、九州の公立中学校に通っていた娘が急に変わった。明るい笑顔が自慢で、部活動に打ち込んでいた娘は伏し目がちになり、突然怒ったり、泣きだしたりするようになった。娘は理由を語らない。夫妻は「思春期だから」と互いを納得させていた。

 2学期が始まると娘は学校に行かなくなった。タカマツ夫妻は、信頼していた部活動の50代の顧問に何度も相談した。「私に任せてください」という言葉を夫妻は頼もしく思っていた。

 秋になり、自宅を訪ねてきた教頭と担任から、こう告げられた。「娘さんは顧問からわいせつ被害を受けてます」

 夏休み前の部活動の帰りだった。顧問に「ドライブしよう」と誘われた娘は、車で人けのない場所に連れて行かれ、体を触られ、キスをされたという。娘が友人に打ち明けたことで発覚し、「顧問も『責任を取る』と言っています」と担任は告げた。

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 「励ますために肩や太ももに触れたかもしれないが、わいせつ行為はしていない。辞めるつもりもない」

 翌日、顧問に会いに行ったタカマツ夫妻は、その言葉に耳を疑った。謝罪の言葉もなかった。教育委員会の聞き取りにも、PTAの集まりでも顧問は「身の潔白」を主張。「行為を認めた」と話していた教頭や担任も口をつぐんだ。

 生徒指導に熱心で、荒れていた学校を立て直したという顧問の実績も影響したのだろう。「あの先生に限ってそんなことするはずない」とタカマツ夫妻は周囲から何度も言われた。「ミニスカートで学校に来ていた」「男をたぶらかす子」。根も葉もない娘のうわさにも傷つけられた。

 学校代わりに通わせていた塾にまで押し掛け「(うそを)白状しなさい」と娘に詰め寄る保護者もいたという。無言電話も続いた。娘は顧問が怖くて学校に行けなくなりリストカットを繰り返した。教育委員会に訴えても「顧問にも人権がある。証拠もないのに処分できない」。顧問は自宅謹慎にすらならなかった。

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 元中学教諭で、1200件を超す相談を受けてきたNPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」の亀井明子代表は「あってはならないことだから、学校も保護者も『なかった』方向に傾いていく。いじめが隠されるのと同じ構図」と指摘する。タカマツ夫妻と娘が直面したような二次被害は珍しくないという。

 うそつき呼ばわりされた娘のために、夫妻は民事訴訟で闘い、そして裁判で顧問のわいせつ行為はすべて認定された。勝訴の報に喜んだとき、顧問は既に定年退職していた。

 「被害に遭った子どもが守られず、居直った加害者が処罰も受けないなんておかしすぎる」。教育現場への不信感が夫妻には刻まれている。

 わいせつ行為の調査 文部科学省によると、重大ないじめ案件については「第三者委員会」の設置が法律で義務付けられているが、生徒に対する教職員のわいせつ行為などについて定めた法律はなく、各自治体の教育委員会や学校の判断で調査が行われている。学校内で起きる教職員の犯罪を研究してきた吉田卓司藍野大准教授(教職教育)は「身内の調査、判断には限界がある。性被害の特質を理解した専門家による事実確認や被害者の心のケアなどに対応できる第三者機関の設置が必要だ」と指摘する。

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=2016/07/21付 西日本新聞朝刊=

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