【累犯を断つ】(3)の1 これが償いだろうか

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 「1、2、3、4(よん)、4(し)、5、6、7(なな)、7(しち)…」

 午前8時半。白髪丸刈りの男たちの点呼の声が響いた。たどたどしい足取りで数十歩先の工場へと向かっていく。

 長崎刑務所が、房の近くにあった倉庫を高齢者や障害者のための「14工場」に改修したのは2年前。房から工場に至る廊下の壁には手すりを付けた。刑務所にいる828人のうち、20人ほどがここに配属されている。

 14工場の一日は、始まりが遅く終わりは早い。他の受刑者より1時間短い1日7時間の労役。その内容も大きく異なる。

 この日は、ナイロン製の泡立てネットをこしらえていた。茶筒のような形に切断されているネットの片方の端を折り込んで接着し、ネット自体を裏返すという単純な仕事。でもうまくできない受刑者は何人もいる。

 50代の男は、裏返して並べる工程だけを担っているが、1枚に30秒はかかる。その隣で60代の男は絶えず体を前後に揺すっている。認知症と統合失調症の疑いがある。

 仕上がっていくネットは形がふぞろいで、製品とはみなされない。世話係を務める模範的な受刑者が、裏返されたネットを元の状態に戻して作業机に置いた。男たちは再び、時間をかけて同じ作業をする。実りのない労働の繰り返し。これが彼らの懲役である。

 「ほかに、やらせることがないんですよ」。刑務官がため息をついた。

 食事は具材を細かく刻み、おかゆも用意する。テレビの音量は大きく。便所を流さず、水道を止められず、パンツをはき忘れる受刑者もいる。食べて1時間もすると「おなかがすいた」の声が上がる。

 お昼のあとは運動の時間。「大将、これ、何でしょう」。捕まえたバッタを両手に包んだ初老の男が担当刑務官の加山雄一(56)=仮名=に見せにきた。「私は誰でしょう」と加山が返す。男は首をかしげて「分かりません。大将は誰でしょうかね」。

 加山は一般の工場を担当していたとき「もっとテキパキしろ」「ピシッとせい」と受刑者に厳しく命じる日々だった。今は「ゆっくりでいい」「慌てるな」が口癖になった。「規律より、けがをさせないことが大事ですから」

 刑務所長の久保弘之(56)も言う。「規律一辺倒だった刑務所に『支援する』という視点が必要になってきました」

 九州最大規模の福岡刑務所の調査官も変化を肌で感じている。ここの「17工場」「18工場」も高齢者と障害者。「カァーッ」「ペッ」。たんを吐く音が静寂を破る。多くは累犯だ。55人の定員は満ち、他の工場で軽作業に従事しつつ空きを待つ人もいる。

 佐世保刑務所の「13工場」で高齢者や障害者を受け持つ刑務官は「彼らはここを出ても、また戻ってくるかもしれない」と思うことがよくある。罪を償う以前に、きょうを生きることに周囲の支えが欠かせない。頼る人がいなければ、どうやって生きていけばいいのだろう。

 「刑務所の門を出たら右と左、どっちに行けばいいですか」。出所を控えてこう尋ねてきた受刑者は一人ではない。そして門から送り出せば、犯罪者を矯正するという刑務所としての務めは終わる。
(敬称略)

 ▼受刑者の高齢化 法務省によると、2010年に収監された受刑者2万7千人のうち60歳以上は4100人。全体の15%を占め02年から7割増えた。受刑者総数は06年をピークに減少しているが、高齢の受刑者は増え続けている。10年に収監された60歳以上の罪名は窃盗が最も多く47%。覚せい剤取締法違反(11%)、詐欺(9%)と続く。3年以下の懲役・禁錮刑が8割。3回以上の服役は6割に上り、刑務所を出ても再び罪を犯して戻る高齢者は後を絶たない。

=2011/12/16付 西日本新聞朝刊=

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