【語る 罪と更生】(1)福岡県就労支援事業者機構事務局長 北崎秀男さん

福岡県就労支援事業者機構常務理事・北崎秀男さん
福岡県就労支援事業者機構常務理事・北崎秀男さん
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 「保護司手帳」の1ページ目を見せてくれた。《保護司信条-過ちに陥った人たちの更生に尽くします…》とある。刑務所や少年院を出た人を見守る保護観察官や、仮釈放の是非を決める地方更生保護委員を務め、退職後は保護司の傍ら罪を犯した人の就労支援を続ける。この道42年目、誰もが認める更生保護のプロだが、実は-。

 「不良少年だったんです。マンボズボンをはいてね。けんかばかりして警察のお世話になり『次は保護観察ぞ』と言われた。高校3年のとき、他校の生徒と決闘しようと約束の場所に行ったらパトカーがいた。担任の先生が『北崎、もうええやろ』と。荒れたのはそれが最後」

 「高校卒業後、九大病院に就職しました。たまたま官舎の隣人が保護観察所の職員。話を聴いているうちに、私と同じような少年たちの役に立てないかな、と。昔の自分に会いたいような気持ちもあって26歳で保護観察所に移りました」

 4年目に念願の保護観察官となる。

 「当時は学校が荒れていた。元気な少年が多くて『うるさい! なんで分からんとね』と机を蹴るのもいた。面接は、けんかみたいでしたね」

 「万引を繰り返す中学3年の少女がいた。気が強くて学校も手を焼いていたけど、純粋な面もあって。『高校に進学したい』と。家庭教師をしていた女性に保護司をお願いしました。いろんな人が自分のことを心配して関わってくれている、と伝わったんだろうね。真面目に勉強するようになって、何と高校に合格できたんです」

 更生保護の現場は変わりつつある。仮釈放者による再犯事件が相次ぎ、保護観察対象者への監視の目を強める施策が近年導入された。

 「例えば、対象者との約束事である順守事項に『禁酒』があるとする。一杯でも飲んだら違反。だけど昔なら、生活が乱れない限り、もう少し見守る空気があった」

 「怖いのは、決まりを守っていても、本当に立ち直っているか、内面の見極めは難しいということ。結局、人間同士の信頼関係をつくれるかどうか。昔も今も、この仕事の永遠の課題ですね」

 大阪の通り魔事件で逮捕された容疑者は刑務所を出たばかり。「仕事もなく、自殺を思い立ったが死にきれなかった」と供述しているという。

 「罪を犯した人、非行少年は、社会と関わることによって初めて自分の居場所ができる。その一つが職場です。取り組んでいる就労支援事業は、刑務所や少年院にいるときから職探しを手伝い、雇用主を連れて行って面接し、社会に出た後も見守る仕組みです」

 「最近の少年は殻にこもっているというか。会話が成立しない。昨年の夏、少年院で会った少年は『こんにちは』とあいさつしても返答がなく、目を合わせようともしなかった。困りました」

 「ただ何度か顔を合わせるうちに、『どんな仕事があるの』と人懐っこい表情を見せるようになりました。今は真面目に働いています」

 58歳、熊本保護観察所長のとき。顔なじみになったタクシー運転手の男性から「保護観察のおかげで立ち直れました」と打ち明けられた。

 「運転席から免許証を手渡すんです。裏に家族の写真が貼ってある。みんないい笑顔でね。彼は私と同い年、しかも元不良少年。自分のこれまでと重なってしまって…」

 (相本康一)

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 罪を犯した人をどう支え、再犯という悪循環を断ち切るか。刑事司法や福祉の現場で何が起きているのか。識者に聞く。

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 ▼きたざき・ひでお 1944年生まれ。長崎、熊本両保護観察所長、九州地方更生保護委員会委員などを歴任。退職後の2010年4月からNPO法人福岡県就労支援事業者機構事務局長。11年春以来、元受刑者や少年121人中57人の就職先を見つけ、高齢者など20人を福祉施設などにつないだ。福岡県の委託を受け、近く少年就労体験事業を始める。福岡市在住。

=2012/06/21付 西日本新聞朝刊=

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