【語る 罪と更生】(5)桐蔭横浜大学法学部教授 河合幹雄さん

河合幹雄・桐蔭横浜大教授
河合幹雄・桐蔭横浜大教授
写真を見る

 誰もが耳にしたことのある怪談は、実は本当の殺人事件だった-。犯罪と社会のありようをひもとく法社会学者の語りは意外なところから始まった。

 「怪談はフィクションではないんです。殺人事件の本をまとめるために調べたんで。怪談を読んで昔の事件記録と照らし合わせると、見事に一致したわけです」

 社会が犯罪者にどう対応してきたかも怪談がヒントをくれるという。

 「『人でなし』って表現しますよね。文字どおり犯罪者は人間ではないと。怪談のように何かに取り付かれた、と考えて忌み嫌ったんですね。多くの人は、刑務所から出てきた人なんて見たこともないって言うでしょう? 日本の文化は『ハレとケ』。犯罪や犯罪者は『ケ=穢(ケガ)れ』。だから昔から排除してきたんですよね、世間から」

 罪を犯した人を排除する空気はいまも根強い。刑を重くする法改正が続き、厳罰化という言葉が定着した。

 「犯罪の件数はむしろ近年減っている。統計で明らかです。だけど一部の凶悪な事件は大きく報道されて、何となく世の中が悪くなった気がする『体感治安』が悪化した。誰かが悪いっていう不満があって、生活保護を受けている人さえ悪者扱いされたりする。そんななかで犯罪者はスケープゴート(不満をそらす身代わり)にされやすい」

 「悪いことをした人を厳しく叱るのは正しい。叱る内容を考えないといけないのに、厳罰化って単に刑務所に長く入れることしかできない」

 刑務所は高齢者であふれ、罪を重ねる人も多い。再犯率も上がった。

 「ある医療刑務所に行ったんです。一見すると、おじいさんばかり。実際の年齢分布を見て驚きました。70代は1人。60代だと感じた人は50代だった。みんな、ふけている。50歳を過ぎて、社会に適応できず刑務所に入る人が増えています。老後を支える仕組みが壊れたのと、普通に生きてきた人が年を重ねて家族関係でつまずき、転落しているように思います」

 「犯罪者が皆、罪を繰り返すわけではない。社会で生きる力の弱い人が長生きするようになり、やっていけないから犯罪に至る。人知れず出所者の面倒をみていた保護司のような人が高齢化し、不足していることも見逃せないですね」

 罪を犯した人を支える態勢も揺らいでいる。

 「住民のほとんどは出所者(犯罪者)の世話に全く関わってこなかった。穢れだからね。一部の保護観察官や刑務官、民間の保護司や出所者を雇い入れる中小企業などが努力して支えていた。でも地域で受け皿になる人が細っちゃった。もともと足りていなかったから大変です」

 「いろんなものが機械化したけど、人の世話をするのは人しかいない。なのに人を育てる、人の世話をすることをサボってきた。犯罪者を手当てする更生保護も同じ。だから大きなダメージがきています。このままでは制度がもたないのは目に見えているけど、今後のビジョンは描けていない」

 市民が刑事裁判に参加する裁判員裁判が始まり3年がたった。罪を犯した人のその後にも少しずつ目が向き始めた。

 「いいチャンスかも。地域の人が犯罪者の立ち直りを何も支えず、何も知らないという『お任せ状態』は脱しないといけない。住みよい社会をつくり、どんな国にするのかという視点で一人一人が考えるときです」

 (久保田かおり)

 =おわり

    ×      ×

 ▼かわい・みきお 1960年生まれ、京都大学法学研究科博士課程修了。専門は法社会学。法務省「矯正処遇に関する政策研究会」委員、警察大学校嘱託教員などを務める。パリ第二大学への留学経験もありフランスの司法制度にも詳しい。日本法社会学会理事。著書に「安全神話崩壊のパラドックス」「日本の殺人」など。川崎市在住。


=2012/06/25付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]