【少年院のいま】(2)治療と指導 できること少しずつ

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 言葉が思うように出てこない。知的障害があるユウキ(18)は頭が真っ白になり、顔を手で覆った。法務教官(35)が助け舟を出した。「一回、パスしよう」

 5分後。再びユウキの番が回ってきた。声を絞り出す。「シンナーやろうよ」。「体に悪いよ」と相手の少年。「よく言えたねえ」。教官の笑顔にユウキの顔も緩んだ。

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 知的障害や発達の遅れなどがある少年に専門の教育をする中津少年学院(大分県中津市)の授業だ。「急に言われたら考えがまとまらない」。ユウキは戸惑う。知的障害がある子は、言葉で表現することや対人関係を築くのが苦手な子が多い。この授業は、表現力を高め、悪い誘いも断れるようにする狙いがある。9人は誘う側と誘われる側に分かれて演じ、対応を学んだ。

 10月、教官はユウキの変化を感じた。「以前なら、イライラして声を出していた場面。自分で気持ちを落ち着けてやりきった」

 窃盗などで入院したユウキ。号令を出す係で声が出ずに泣き、何事も悪い方に考える癖があった。日々の出来事を日誌に書き、相手や自分の気持ちを理解する練習も重ねている。

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 衝動を抑えきれない少年が大声でわめき、ガラス片を手に襲いかかってくる。布団で身を守りながら何人もの職員がなだめる。けが人も出る。「半年で2、3件は起きます」。精神や体に病気や障害のある少年が集まる医療少年院の精神科医は言う。

 「眠れる? 食べられる?」。入院したばかりの子の診察で、医師はこう語りかける。心を閉ざして、しゃべれない子、しゃべらない子も少なくない。「まずは少年院が安心できる場所になるように」との思いからだ。

 京都医療少年院(京都市)では、集団で少年をみる一般の少年院とは異なり、マンツーマンで指導する。「ここ数年で精神疾患の子が増えた。教官2、3人が付きっきりになることもある」と次長の妙圓薗史(みょうえんぞのふびと)は言う。

 主治医を決めて、信頼して治療を受けさせるのが最優先だ。週3回の補習時間はカウンセリングもする。

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 居室で食べて寝るだけ。風呂も入らず、歯も磨かず、異臭を放つ。いわゆる、引きこもり。「全国の少年院に数例ある」と関係者は口にする。「何に興味があって動くのか。会話で探るしかない」。現場の奮闘は続く。

 中津は、入院して間もない少年のしつけに苦労する。ベッドの上で歯磨き。ボタンを留めたシャツをかぶって着る。「歯磨きは洗面所で。ボタンは外して」。教官は、まるで幼児の親のようだ。返ってくるのは「意味わかんねぇーし」。

 「粘り強く、待つのが仕事。根気です」。院長の白井健二は言う。

 「中学でいじめられ、やり返すようになった」。知的障害があるコウジ(20)は振り返る。障害があるから非行に走るわけではない。でも、障害や特性を周囲に理解されず、強がったり、孤立したりして道を外れた子は珍しくない。相手の目を見て話すことができずにいたコウジは、いま仲間にプリントを配り、号令を掛ける係をこなす。

 「少しずつ、成長がある」。教官たちの実感だ。 (敬称略、少年は仮名)

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 ▼特殊教育課程 知的障害や情緒が未成熟な少年に専門的に対応する特殊教育課程がある少年院は、中津少年学院を含めて全国に3施設。少年院収容者はこの20年では2000年をピークに減少傾向だが、特殊教育課程の少年の割合は全収容者の2・2%(00年)から10年は3・0%に増えた。3施設の収容率は高く、法務省は今年4月から帯広少年院でもこうした少年の受け入れを始めた。中津少年学院に入院する少年は、知的障害や精神遅滞が4割強、広汎性発達障害や自閉症が2割‐など。


=2012/11/07付 西日本新聞朝刊=

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