最高の薬は飼い主の愛情<12>

面会室で、動物看護師と一緒に飼い主を待つ犬
面会室で、動物看護師と一緒に飼い主を待つ犬
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 ソファが置かれた6畳ほどの部屋。竜之介動物病院(熊本市中央区)の2階には、入院中の動物と飼い主が触れ合える「面会室」を2部屋、確保しています。私は、この部屋に大きな役割と力を感じています。

 獣医師や動物看護師など動物病院のスタッフは、病院に来た犬や猫の病気を治そうという感覚で治療をするのはよくありません。どんなに良い治療や薬を提供したとしても、動物たちが治ろうとしなければ、治ることはありません。動物たちの生きようとする力を養わなければならないのです。生きようとする力は、どうすれば取り戻せるのでしょうか。

 私の病院ではペットを入院させる際、1週間をめどに退院してもらいます。長期入院になるような場合も、一時退院してもらうようにしています。一時退院したペットたちは、入院中よりも元気になって戻ってくることが多いのです。飼い主の愛情と、飼い主ともっと一緒にいたいというペットたちの思いが、生きる力を強くするのです。

 ラブラドルレトリバーやゴールデンレトリバーといった大型犬が、交通事故に遭うと内臓破裂など重傷になるケースがあります。内臓が破裂してしまうと、犬はぐったりと表情を失い、まったく動けません。ところが、飼い主が面会に来ると、尻尾を振って飼い主に応えようとするのです。立ち上がって、飼い主のそばに行こうとすることさえあります。

 病院のご飯を食べない犬には、飼い主が作った物を食べさせるようにしています。または、飼い主に来てもらって飼い主の手で食べさせてもらいます。病院の食事がどんなに栄養価の高い物であっても食べてくれなければ意味がありません。食事を取らない犬も、飼い主の手を通すと不思議と食べるようになるのです。

 自宅でいつもペットが寝ている場所にあるクッションや毛布を持って来てもらうこともあります。それが「家に帰りたい」という思いを呼び起こします。

 私たちの治療行為は対症療法でしかありません。実は、動物の生死を分けているのは「生きたい」という本能と生命力。それは、飼い主の愛情が支えています。

 瀕死(ひんし)の状態で入院しているペットを飼い主が見舞い、横たわったペットに精いっぱいの思いを込めて呼び掛けます。「頑張れ」「良くなったら、また一緒に散歩に行こうな」…。絞り出すように呼び掛ける言葉が、思いがけない奇跡を呼ぶのです。

 飼い主の愛情はペットの治療に不可欠です。動物たちにとっての最高の薬は、飼い主だということを忘れてはいけません。医学的には証明されていないことだけれど、私は確かな事実だと考えています。

(竜之介動物病院長、熊本市)

※この記事は2016/10/20付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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