不幸な野良猫を減らす<15>

近くの小学生たちが保護した野良猫。保護後に子猫を産んだ
近くの小学生たちが保護した野良猫。保護後に子猫を産んだ
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 皆さんは、TNRという言葉をご存じでしょうか。不幸な野良猫を減らす活動を意味する「世界共通語」。Trap(捕獲器で野良猫を捕獲する)、Neuter(不妊手術を施す)、Return(元の生活場所に戻す)。この頭文字を取った言葉です。

 猫は雌猫1匹が1年間に20匹も産むことがあります。その猫たちをボランティアの手を借りず、全て幸せにするのはとても難しいことだと実感しています。

 竜之介動物病院(熊本市中央区)では2月と11月の各1週間、「N」に当たる不妊手術をボランティアとして無償で行っています。ただし、ダニやノミなど外部寄生虫の駆除代を負担してもらうことで、地域の衛生環境を含め、野良猫との共生を考えてもらう機会にしています。

 1週間で野良猫約1200匹が運ばれてきます。私たちが請け負うのはあくまで、獣医師しかできない手術のみ。私たちや全国から集まってくれる有志の獣医師が手術だけに集中することで、短い期間で1200匹もの不妊手術を実現できるのだと思います。

 この活動の一番の協力者は、野良猫を捕獲し、病院に運び、手術後に迎えに来て元の場所に戻すボランティアの方々です。参加者は猫が好きな人ばかりではありません。地域活動として参加している人、猫は嫌いだけど命として扱ってくれる人など、さまざまです。

 猫など飼ったこともない年配のご夫婦が、猫を捕獲して連れて来ました。普段、夫婦の会話もなかったのに、猫をどうやって捕まえ、連れて行くかを話し合ううちに夫婦の会話が増えたと、仲良く笑っていました。この活動は猫のためだけでなく、人と人をつなぐ活動でもあるとあらためて感じます。

 活動期間中、私は多くの野良猫に出合います。大きな体は傷だらけで、犬歯が1本折れている野良のボスといった風貌の雄猫。小さな体で何回出産を繰り返したのか、ぼろぼろの体でやって来た雌猫。今回連れて来られなかったら命が危なかったであろう子宮ちくのう症の猫。さまざまな猫の生きざまがうかがえます。

 1日の手術件数は200匹を超えます。ひたすら目の前の猫の手術に取り組みます。最もつらいのが既に妊娠している猫の手術です。不本意な気持ちを抑えて冷静さを保ち、安全に子宮全摘手術ができるよう集中します。最も心が疲れる瞬間です。子宮にいた子猫たちも、どうかもう一度猫として生まれ変わってきてほしい。そのときは殺処分などない、幸せな一生が送れる世の中にするからと、心で伝えます。

 TNRは九州全域で一斉に行うことが、野良猫を減らす近道です。この世界から野良猫という言葉がなくなり、飼い猫と、不妊手術を施した上で地域で管理する「地域猫」のみになってくれたらいいのに、と願っています。

(竜之介動物病院長、熊本市)


※この記事は2016/11/10付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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