<15>「呼び戻し」の濃厚な味 陽向(熊本県嘉島町)

西日本新聞

大量の豚骨が炊き込まれた羽釜をかき混ぜる内田哲史さん 拡大

大量の豚骨が炊き込まれた羽釜をかき混ぜる内田哲史さん

熊本県嘉島町鯰1803の2。ラーメン600円、卵入りラーメン650円、ギョーザ300円。昼は午前11時~午後3時。夜は午後6時~同11時半(土日祝は午後5時から)。定休日は火曜日。096(285)4450。

 小ぎれいな厨房(ちゅうぼう)で「陽向(ひなた)」(熊本県嘉島町)の店主、内田哲史さん(31)が羽釜をかき混ぜると濃厚な香りが立ち上った。濃さの理由は、複数の釜を使い、煮立てたスープに新しいスープを継ぎ足しながら味を深めていく「呼び戻し」という技法を使っているからだ。

 釜からスープをすくって丼に移す。麺を入れ、チャーシュー、のり、卵の黄身を投入した。なみなみと注がれた褐色のスープはいい具合に脂が浮かぶ。口に運ぶと確かに濃厚だ。しかし、それは「味が濃い」とは違う。豚骨ダシの濃さである。「うまみを最大限出すために骨はゲンコツ(大腿(だいたい)骨)のみ。呼び戻しで継ぎ足していくことでそのうまみが蓄積される」と内田さん。

 一定量の骨を一定時間煮出して作る「取り切り」のスープと違って、呼び戻しスープは一筋縄ではいかない。客の入り具合、煮込む時間、追加する骨や水の量を考えながら濃度を整えていく。「こうすれば正解という決まりがない。すべては経験だけ」。しかも元ダレは薄口しょうゆのみ。スープの出来がラーメンの出来に直結する。「これでも今日はちょっと薄いんです。ただ骨を増やしたら濃くなるわけではない。ラーメンに携わって10年。今もこんなに悩むとは…」

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 呼び戻しの発祥の地は福岡県久留米市とされる。ただ、昔ながらのスープの製法を、久留米ラーメンの全ての店が取り入れているわけではない。内田さんが学生時代にアルバイトし、卒業後に就職した久留米のチェーン店もそうだった。

 店舗の拡大とともに、熊本などで店長を経験し、腕を磨いた。独立を意識した頃、ある思いが芽生えた。新しい味に挑戦したい-。目を付けたのが、「シンプルでラーメンの原点」と考える呼び戻し。その技術を継承する「いちげん。」(佐賀市)の経営者、内田健市さん(42)からスープの作り方を学び、2013年10月に「陽向」を構えた。

 この場所を選んだのは「熊本にこんなラーメンはないから」。スープの由来は久留米。生卵のトッピングは佐賀…。開店当初は「(熊本ラーメンの特長の)ニンニクチップはないのか」と客から言われた。味に対する自信の一方で“熊本らしくない”ラーメンで勝負する不安もあったのか、店内にはこんな文言が掲げられていた。

 「うまみが強く、クセがあります。最初は食べにくいかもしれません。是非(ぜひ)、3度は食べて頂(いただ)きたいです。必ず、離れられないラーメンになるはずです」

 離れられなくなった人が多いのだろう。取材した日も大にぎわいだった。 (小川祥平)

=2015/05/21付 西日本新聞朝刊=

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