【耕運記】有明海再生 環境省が連携、新たな芽

西日本新聞

約140人が参加した第6回有明海再生シンポジウム。森里川海のつながりを見直す契機となるのか 拡大

約140人が参加した第6回有明海再生シンポジウム。森里川海のつながりを見直す契機となるのか

 「森里川海」をめぐる多様なつながりを紡ぎ直そうという波が会場に広がった。福岡県柳川市で16日にあった第6回有明海再生シンポジウム。今回は環境省との初の連携イベントとなり、学生ら多くの若者を含む約140人が参加、有明海だけでなく日本全体の沿岸環境の再生に向けたうねりを予感させた。

 シンポは2010年にスタート。有明海の豊かさの秘密を淡水と海水が混じる汽水に見いだし、湾奥に流れ込む筑後川が大きな恵みをもたらしているとの考え方に立つ。「瀕死(ひんし)の海」となったのは流域の森と里、海が分断されてしまったことが要因であり、流域住民の暮らしや川との関わりを見つめ直す新たな学問「森里海連環学」を再生への基本理念とした。

 今回、シンポに環境省が関わることになったのは、この連環学がきっかけ。同省は、自然の恵みを酷使し使い果たしてきたこれまでの社会のあり方を見直そうと、今後の社会像として命を基軸とした「環境・生命文明社会」の創生を掲げた。折しも、東北の漁業者による河川上流への植樹運動「森は海の恋人」が、東日本大震災を機に脚光を浴びる。海の恵みは川を通じて運ばれる山林の滋養に支えられている、との考え方の科学的根拠を探る連環学も注目される。連動する形で同省は昨年12月「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトを打ち出した。

 場当たり的でなく、総合的な海の再生に向けて「ようやく重い腰を上げた」(関係者)ともいえるが、国が動きだしたことの意義は大きい。「連環の考えが社会的にも重視されるようになり、プロジェクトに結びついたことで有明海が全国的な課題となった。再生への新たな芽が生まれた」。シンポ主催者のNPO法人「SPERA森里海・時代を拓(ひら)く」理事の田中克(まさる)・京都大名誉教授は語る。

 シンポでは、同省の中井徳太郎大臣官房審議官が「自然の恵みを引き出し、子孫に恵みが行き渡る社会のあり方に変わるよう、これまでの歯車を逆に回すのが私たちの役割」と呼び掛けた。資金として「荒ぶる自然を鎮めるさい銭の気持ち、子孫に伝える貯金のつもりで国民1人が1日1円、年間365円を納めてもらい、経済界と合わせて年間計700億円」の新たな税を提案した。森里川海のつながりの修復、保全を目指して国民的な運動に高める狙いがある。

 プロジェクトのもう一つの特徴は、官民一体による取り組みだ。市民サイドの組織「推進志民会議」は、各地の地域づくりを支援している「場所文化フォーラム」(東京)が母体となる。吉沢保幸名誉理事は、今回のシンポが九州ブロック会議として全国で最初の志民会議となった意味を強調。「九州からの大きなステップになる」と期待した。

 志民会議は全国に設立される見通しで、構成メンバーには流域を含む地域の各種団体を想定する。吉沢名誉理事は「会議で情報交換しながら、森里川海をめぐる問題を抽出する役目を担いたい」という。地元企業や金融機関にも加入を働きかけたい考えだ。

 中井さんは「ボトムアップの視点で地域住民の心に合った行動計画と実のある取り組みにできるかどうかが課題」と話す。

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 会場との討論では、来場者から有明海が瀕死の海となった原因を問い、それがはっきりしないのに新たな税を提案することに疑問を投げかける厳しい指摘もあった。有明海の再生を現場で実感できる具体的な施策を求めるのは、地元のまっとうな声だろう。

 世界各地の漁村などをシーカヤックで巡る「海遍路」を続け、有明海を巡回している海洋冒険家の八幡暁(さとる)さんは会場に語り掛けた。

 「人間はもろい。個では生きられない。自然に触れることでそれを知り、自然に対する謙虚さと感謝を得られる」

 自然と人間が関わる上での真理であり、プロジェクトにも貫かれるべき姿勢だろう。地元の思いとシンポの理念を凝縮した言葉でもある。


=2015/05/27付 西日本新聞朝刊=

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