【自由帳】小規模校の統廃合方針 心身育む利点見直し

西日本新聞

2008年5月に撮影した板野東小学校大坂分校。右側が校舎で、幼稚園も同じ建物内にある 拡大

2008年5月に撮影した板野東小学校大坂分校。右側が校舎で、幼稚園も同じ建物内にある

 森の小路を上りきると、平屋の校舎が現れる。徳島県北東部にある人口約1万4千人の板野町。私の母校、板野東小学校大坂分校が今もそこにある。

 通学した25年ほど前、児童数は1~3年で10人足らず。私に同級生はいなかった。1学年上もしくは下の児童とともに、2学年合同の複式学級で育った。

 分校でのテストでは、授業終了まで待たず、解き終わった児童から競うようにプリントを提出。先生はその場で採点してくれた。「あ~、ミスしてた」。間違いはすぐに正された。

 学習の理解度が早い児童は、個別授業がどんどん進んだ。2年生で習っていた九九を、1年生で一緒に覚える子もいた。理解が遅い児童は、授業中に何度でも分かるまで質問した。児童それぞれに目の行き届いた教育があった。

 4年生になると、私たちは列車にひと駅揺られ、1学年3学級の本校に通った。本校では一人一人の理解度に応じた授業を進める余裕はなかった。テスト結果も、数日後に返ってきた。

 分校の教育をあわれんでみる人が少なくない。でも、実体験は逆だ。新聞記者となり、3児の父になり、教育問題の一端を取材しながら考え込む。

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 「集団の中で自己主張したり、他者を尊重したりする経験を積みにくく、社会性やコミュニケーション能力が身につきにくい」

 「多様な物の見方や考え方、表現の仕方に触れることが難しい」

 文部科学省は1月、各都道府県教育委員会に通知した公立小中学校の統廃合に関する手引で、小規模校の課題をそう記した。

 小規模でも統廃合を選択しない場合の対策として、電子黒板などの情報通信技術(ICT)を活用し、「一定レベルの基礎学力を全ての児童生徒に保障する」ことを例示した。

 だが、文科省の説明には違和感を覚える。多様な意見に触れたり、児童同士で競い合ったりする機会は確かに少ない。一方、私にとっては、心身と学力の両面から、多くの成長をもたらしてくれたと思うからだ。

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 分校入学後、最初の掃除。「この床は何もごみがないように見えるでしょ。でも、ほら」。2年生がほうきを滑らせると、細かなごみが集まった。「だから、隅々まで掃いてね」

 休み時間や放課後、学年を越えて教え合った。先生がいても気兼ねせずに発言し、行動した。いたずらが過ぎて叱られもしたが、少なくとも私は全員の児童と先生を信頼できた。小規模な集団だったとはいえ「自己主張したり、他者を尊重したりする経験」はたくさん積んだ。

 校外の遊びは虫捕り、魚釣り、川遊び、山の探検。野山になったアケビの甘さ、渋柿の渋味を初めて知り、雑草の茎が「意外と食べられる」ことも覚えた。

 先生の教えや上級生の「いい点」を素直に吸収する力、自然の差異を見つける観察眼、日々の疑問に対する探究心が育まれたと思う。異学年の学び合い、五感教育など、小さな分校には、教育再生を考える上で、忘れてはならない大切な視点が含まれていると思う。

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 グローバル化、少子化の時代に対応した学校や教室のあるべき姿は…。小規模校での教育は、山梨県で2月に開催された日本教職員組合(日教組)の教育研究全国集会でもテーマの一つになった。

 地域に残る田んぼを生かした学校行事、地域の特色を盛り込んだガイドブックやカルタの作成など、教職員は分科会で、自校での取り組みを報告した。ただ、「われわれの職場を守るため、統廃合に反対」という意見が目立った。小規模校の利点や課題に関する議論は深まらなかった。

 この5月。私は分校に電話した。卒業生だと伝え、現状を尋ねた。「今の児童数は9人です。閉校の話は出ていません」。何だかうれしかった。そして、将来を思う。


=2015/06/02付 西日本新聞朝刊=

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