<4>5万年のアリバイ崩し【星を継ぐもの】

西日本新聞

 本国ではそうでもないのに、日本でめちゃくちゃ人気の高い翻訳小説というのがたまにある。SFでは、ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(池央耿訳、創元SF文庫)がその筆頭。

 著者は1941年、英国ロンドン生まれ。77年に米国で刊行したデビュー長編『星を継ぐもの』は、80年に邦訳されるとたちまち熱狂的な支持を集め、翌年、日本SF大会参加者が投票で選ぶ星雲賞海外長編部門を受賞した。この邦訳版は、発売から35年間で94刷、累計45万部と、創元SF文庫最大のヒットを記録。昨年電子書籍化されて、そちらもベストセラー街道を驀進(ばくしん)している。ところが英語版の本は、イギリスでもアメリカでも品切れ。かろうじてオーディオブック(朗読版)は買えるものの、いまは電子書籍も手に入らない。日本では、星野之宣の手で漫画化までされているのに、それとは大違いのさびしい状況だ。

 物語は、月面で真紅の宇宙服をまとった死体が見つかるところから始まる。チャーリーと名づけられたこの死体は、炭素年代測定の結果、死後5万年を経過していることが判明。だが、主人公格の生物学者ダンチェッカーは“彼”が地球生まれの人類にまちがいないと断言する。いったいどういうことなのか? 一方、木星の衛星ガニメデでは、地球のものではない宇宙船の残骸が発見された。

 謎が謎を呼び、白熱した議論の中から、やがて驚くべき仮説が生まれる。

 ……とまあ、話の骨格は思いきり風呂敷の大きなミステリ。“5万年のアリバイ崩し”(堀晃)とも評された。77年当時でさえ、現代SFにしては古典的な道具立てだったが、だからこそ普遍的なおもしろさを獲得したのかもしれない。

 著者のホーガンはSF大会のゲストとして86年に来日。僕の義弟(妻の妹の旦那)がホーガンの親友だったこともあり、その後も何度か歓談する機会があったが、酒と女性をこよなく愛する、冗談好きで気のいいおっちゃんでした。2010年に69歳で病没。晩年、英米では本が売れず、不遇だったが、日本では30年以上ずっと愛されつづけている。
(書評家、翻訳家)

=2015/06/09付 西日本新聞朝刊=

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