【和食力】かつお節(上) 半年かけ うま味凝縮 カビ付け、天日干し 注意深く

西日本新聞

煮熟を終えてカツオの骨を抜く。家族が黙々と作業する 拡大

煮熟を終えてカツオの骨を抜く。家族が黙々と作業する

まきをたいてカツオをいぶす焙乾

 鉄製のかごが大釜から引き上げられ、湯気が一気に立ち上った。かごには煮上がったカツオの身が並ぶ。かつお節を作る長い工程の初日だ。

 全国のかつお節生産の4割を占める鹿児島県枕崎市。5月下旬、港に程近い宮下鰹(かつお)節店の工場を訪ねた。店主の宮下誠さん(64)ら家族5人が手際よく作業を進める。

 かつお節作りは、生のカツオを三枚におろすところから始まる。5キロ超の大きい物は背側と腹側に分け、計4本のかつお節になる。大釜で煮るのは「煮熟(しゃじゅく)」と呼ばれる工程。約2時間、これでうま味を閉じ込める。その後、まきでいぶし、水分を抜きながら香味を付ける「焙乾(ばいかん)」。中の水分が表面に来るまで火入れを休み、再び焙乾。これを2週間~1カ月続け、「荒節」が出来上がる。パック詰めの削り節の原料だ。

 大きいカツオは次の工程へ移る。カビ付けと天日干しを繰り返す。カビの一種、こうじ菌がカツオの水分を抜き脂肪を分解、タンパク質をアミノ酸に変える。この発酵が、より濃縮された独特のうま味と香りを生み出す。作り始めから約半年後、「本枯節(ほんがれぶし)」がようやく完成する。

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 湯気の立つカツオは素早く水で冷やされる。宮下さんらは手作業で黙々と骨を抜き、かごに並べ、焙乾室へ運んだ。工場の2階まで5層になった部屋だ。地下に敷いたまきに火を付けると炎が上がり、煙たさが襲ってきた。あっという間に焙乾室は煙が充満した。

 宮下さんは約40年前、東京からUターンして家業を継いだ。手間と時間のかかる本枯節の生産を始めたのはその2、3年後。当初は失敗の連続だった。年末年始を挟んで焙乾をしたことがあった。6日間休んだら全てに割れが入って台無しになった。

 うま味の決め手となるカビ付けも試行錯誤が続いた。むろにストーブを入れ、お湯を沸かして最適な湿度などを探る。「うちの香りのカビ」をつかむまで十数年かかった。

 現在は温度、湿度を調節できる保管庫に変わっている。当初、カビは簡単に付いたが、味がよくない。わざと悪い条件を設定して時間をかけるようにしたら「うまいカビ」になった。

 「手を抜くとすぐに結果につながる。赤子を育てるように常に目をかけ、手をかける」。天日干しした本枯節は2月に作り始めたもの。注意深く目をやりながら宮下さんが話した。

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 和食を扱う京都の料理人はだしをとることを「だしをひく」と表現する。自然の恵みを引き出すとの意味があるという。

 和食の基本で最も重要なだしは、かつお節なしでは語れない。その起源は約1500年前の生カツオを加工した「堅魚(かたうお)」にさかのぼるというのが定説。古事記に記載がある。現在の形になったのは江戸時代の1700年ごろとされ、紀州(和歌山県)の漁師がいぶしながら乾燥させて作ったという。うま味を閉じ込め、保存性を高める技を生み出した知恵に頭が下がる。

 カツオは泳ぎながら口から水を取り込み、えらに送って呼吸するため、泳ぎ続けないと窒息してしまう。そんな命を支えるエネルギーを凝縮したのが、かつお節だ。自然の恵みと人間の知恵がもたらす「奇跡の食材」に思える。現代の職人はきょうも向き合う。

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【ワードBOX】カツオ

 タンパク質含有量が多く、100グラム当たり25.8グラムで、サバやイワシ、タイの約1.2倍。かつお節になると凝縮され77%がタンパク質。うま味成分のイノシン酸は生きたカツオの体内にはない。筋肉を動かすエネルギー物質ATPが死後硬直の過程でイノシン酸に変わる。


=2015/06/10付 西日本新聞朝刊=

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