<7>胸に沁みる名作【アルジャーノンに花束を】

西日本新聞

 山下智久主演の金曜ドラマ『アルジャーノンに花束を』も、いよいよ今日で最終回。となれば、今夜読みたいSFはこれしかない。ネタバレを気にしていた人ももう安心です。

 主人公は知的障害を持つ青年チャーリイ。学習クラスの先生、アリス・キニアン教授のすすめで、新しい脳外科手術の被験者となる。題名のアルジャーノンは、同じ手術を先に受けた天才マウス。迷路実験でいつもチャーリイを負かしていたが、やがて……。

 と要約すればわかるとおり、SF要素(架空の科学技術)が脳に限定されているのが特徴。というか、SFだと意識せずに読んでいる人がほとんどかも。

 ダニエル・キイスによる同名の原作は、「経過報告」と題されたチャーリイの日記形式。知的能力の向上とともに、誤字脱字だらけの子供の文章からだんだん大人びて難解になってゆく、小説ならではの文体の仕掛けがすばらしい。

 1959年に発表された短編版は、SFファンが選ぶヒューゴー賞を受賞。贈賞式の壇上でプレゼンターのアイザック・アシモフが、「どうしてこんな小説が書けたんだい?」とたずねると、キイスは「もしわかったら教えてください。また書きたいから」(大意)と答えたという逸話がある。この折り紙付きの傑作を長編化したのが66年に出た『アルジャーノンに花束を』。こちらはSF作家、評論家が選ぶネビュラ賞を受賞。68年には「チャーリイ」(邦題『まごころを君に』)のタイトルで映画化され、チャーリイ役のクリフ・ロバートソンはアカデミー主演男優賞を受賞した。

 日本では、ようやく78年になって、早川書房の「海外SFノヴェルズ」の1冊(小尾芙佐訳)として翻訳され、じわじわと人気が浸透。10年後、氷室京介が初のソロアルバムを「FLOWERS for ALGERNON」と命名したあたりから読者層が一気に拡大。ラジオドラマ化、舞台化に続き、2002年にもユースケ・サンタマリア主演でドラマ化されている。累計実売部数は350万部以上。たぶん、日本一売れた翻訳SFだろう。胸に沁(し)みる、まさに永遠の名作。
(書評家、翻訳家)

=2015/06/12付 西日本新聞朝刊=

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