【和食力】かつお節(下) 最高級生む熟練の技 原料、職人確保厳しく

西日本新聞

かつお節を家族で作る宮下誠さん(左)一家 拡大

かつお節を家族で作る宮下誠さん(左)一家

カビ付け後に天日干しされるかつお節

 「大きいカツオをさばくのは父と兄だけ。まだ任せてもらえないんです」
 
 鹿児島県枕崎市の宮下鰹(かつお)節店の宮下誠崇(ともたか)さん(33)が少し照れた。「大きいカツオ」は数少ない本枯節(ほんがれぶし)の原料になる5~7キロの物だ。「頭の落とし方、腹皮の処理、太っているのは深めに刃を入れるとか、形をそろえる包丁の入れ方に微妙なこつがある」。父親の誠さん(64)が説明する。

 工場の水槽には1週間ほど前に鹿児島港(鹿児島市)に水揚げされ、数日中に加工するカツオが入っている。「3キロ以下だとパック詰めの削り節用です。ただ近海物だから味は間違いないですよ」

 かつお節の原料となるカツオは近年、南洋での巻き網漁の冷凍物が大半を占めるが、誠さんは近海の一本釣り物にこだわる。そこには科学的な理由がある。

 巻き網漁では、捕獲されたカツオが網の中で暴れる。そのため死んだ後にうま味成分に変わる体内のエネルギー物質ATPが消費されて減り、乳酸も発生して酸味が増すという。

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 同店の一本釣り物の「本枯節」は東京の老舗からも引き合いがあるなど「最高の品」(東京の問屋)。ただ年間生産量の5分の1ほどにすぎない。出来上がりまで半年を要し、カビ付けなど手間も時間もかかる。妻竹根子(ちねこ)さん(62)、長男瞬さん(34)と次男誠崇さん、それに母の照子(のぶこ)さん(86)の5人で目の行き届いた製造をするには、全体の工程や作業量を考えるとそれが限界なのだという。

 満足できる原料が入手しにくくなっていることも大きい。上質なかつお節は脂肪が多過ぎても少な過ぎてもできない。また一本釣り物は販売価格の高い刺し身、たたき用の鮮魚として流通する量が増えている。「奄美大島から屋久島辺りの3~10月までがベスト。鮮魚用と競争です」。一本釣り漁が縮小していく中で、良質な原料を確保する難しさに誠さんは頭を悩ませている。

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 かつお節の製造は、どの工程も熟練と労力が必要だが、各社ともそうした職人の育成と人手不足に苦労している。地元だけでは足りず、同市内のかつお節工場の多くは、国の外国人技能実習制度を活用して中国人実習生を雇う。その数は4月現在、169人(同市推計)という。

 原料に巻き網漁の冷凍物が多いのは、効率よく大量に捕れ、価格も抑えられるからだ。枕崎で製造されるかつお節のうち一本釣り物の割合は、枕崎水産加工業協同組合によると1~2割、近海の生カツオに限ると5%を切るという。水揚げや生産量などから1%以下とみる業者もいる。

 経済優先の仕組みに、伝統漁によるかつお節は押し流されていくしかないのか。「価値ある物には、高くてもそれだけの対価を支払うことが伝統を守ることになる」。宮下さんと二人三脚で「本物」を追求してきた、かつお節販売タイコウ(東京)の稲葉泰三社長は強調する。

 カツオをいぶす香りが漂う工場で、家族5人の息の合った作業が続く。「日本で一番の物を作っているという自負はある」と瞬さんが言えば「良いカツオがくると元気が出る」と誠崇さん。逆境を楽しむような2人の言葉に、和食の原点を支え、伝統を引き継ぐ職人の誇りがのぞいた。

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 【ワードBOX】削り節

 姿売りではなく削ってパック詰めなどで販売されるかつお節。ラベルの原材料名は原料によって異なり、2回以上カビ付けする本枯節は「かつおのかれぶし」と表記。それ以前の荒節は「かつおのふし」とされ、特に「花かつお」と呼ぶ。


=2015/06/17付 西日本新聞朝刊=

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