【傾聴記】「障害」か「障がい」か

西日本新聞

 「障害者」なのか「障がい者」なのか。福祉を担当していると、よく考える。
 
 「害」の字は「さまたげとなるもの、わざわい」(広辞苑)という意味があるため、「害虫」などイメージが悪い言葉を連想させ、不快に思う当事者がいる。戦前、障害と併用されていた「障碍(がい)」を使うべきだという意見もあるが、碍は常用漢字ではなく、広く使われにくい。

 こうした声に配慮して、ひらがな表記にする自治体が増えている。内閣府によると、2014年3月末現在、人などを表す場合は「障がい」に改めたのは、全国23都道府県・政令市に上る。九州では、熊本、大分、宮崎の3県と福岡、熊本の両政令市。03年ごろからひらがなを使う地方自治体が出始め、政令市以外も含めればかなり広がっているようだ。

 08年にひらがな表記にした熊本県は「当事者団体などの要望を受けた」、05年に変えた福岡市も「『害』の字を使いたくないという意見を考慮した」と説明している。一方、国や法律は漢字表記で、佐賀県は「国の表記に準じている。当事者などからの要望もない」と、漢字のままだ。

 国の障がい者制度改革推進会議は10年、障害の表記については多様な考え方があり「新たに特定の表記に決定することは困難であると判断せざるを得ない」と結論づけた。西日本新聞は常用漢字表に載っている漢字は原則使うため「障害」とし、固有名詞などはひらがなも使う。

 当事者はどう考えているのだろう。

 知的障害がある子どもを持つ親たちでつくる「福岡市手をつなぐ育成会」理事で、ダウン症の息子(20)がいる女性(53)は「息子が『知的障がいがある』と自己紹介するとき、悪いイメージを抱かせたくない」と、ひらがな表記を支持。同会は13年、ひらがなで統一することを決めている。

 同じ当事者団体でも、日本身体障害者団体連合会副会長で、福岡市身体障害者福祉協会長でもある中原義隆さん(74)は「字を変えるだけでは意味がない」。福岡県精神障害者福祉会連合会会長の一木猛さん(71)も「言葉を変えても、差別や偏見はなくならない」と話す。

 障害がある人たちが通う作業所や事業所でつくるきょうされん福岡支部福岡市ブロック代表の吉田修一さん(44)は「障害がある人の障害とはその人自身ではなく、社会との関係性の中にあり、本来の意味の障害」と指摘。日本が昨年1月に批准した国連の障害者権利条約の根底にある考え方だ。

 例えば、車椅子の人がエレベーターがないため、2階に行けない場合、車椅子の人に障害があるのではなく、階段しかないことを障害と捉える。吉田さんは現実を直視するためにも、「害」を不快に思う人がいることに理解を示した上で、漢字を使うべきだと考えている。

 当事者にもさまざまな考え方があるが、共通するのは、障害がある人たちに孤立感や不快感を抱かせる社会の差別や偏見をなくしたいという思い。ひらがなで「障がい」と表記してもなぜそうしているのか、理解していなければ意味がない。単なる表記の問題ではなく、意識が問われている。

 来年4月、障害者差別を禁止し、国や自治体などの公的機関に必要な配慮の実施を義務づける「障害者差別解消法」が施行される。障害がある人たちが社会参加しやすくなるような「合理的配慮」の努力が、民間事業者にも義務づけられる。障害がある人たちの生きづらさや体の状態を理解し、配慮することがいっそう求められるようになる。

 社会に混在している「障害」や「障がい」という表記を目にしたとき、その理由や背景に思いをめぐらせてほしい。


=2015/06/18付 西日本新聞朝刊=

PR

アクセスランキング

PR

注目のテーマ