<9>時間SFロマンス【たんぽぽ娘】

西日本新聞

 絶版になった本をネット通販の中古で買おうとすると、たまにとんでもない値段がついてて驚くことがありますが、SFでは、コバルト文庫の『たんぽぽ娘 海外ロマンチックSF傑作選2』(風見潤編、1980年刊行)が有名。

 もともとレア本だったところに、三上延のベストセラー『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ第3巻の第1話でこの本(とくに表題作)が紹介され、剛力彩芽主演のTVドラマ版第8話で映像化されたため、古書価が急騰。一時はアマゾンで10万円(!)の値がついたことも。

 問題の「たんぽぽ娘」は、ロバート・F・ヤングの時間SFロマンス。未来から来たという、たんぽぽ色の髪をした娘(21歳ですが)は、丘の上で出会った語り手の男性(44歳、妻子持ち)に向かって、ここはわたしのいちばん好きな時空座標なのと打ち明け、「おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた」という名台詞(ぜりふ)を口にする。はたして、ふたりのほのかな恋の行方は?

 原作の発表は1961年。日本では、67年に初めて翻訳されて以来、男性SFファンのハートをぎゅっとつかみ、数々のバリエーションが書かれてきた。今世紀に入っても、大ヒットした恋愛ゲーム『CLANNAD』に前記の名台詞が引用されて流行するなど、人気は根強い。にもかかわらず、ずっと入手困難だったが、『ビブリア』ドラマ化を機に状況が一変。放送終了後の2012年初夏には、同作を収めた本が一挙に3種類も刊行された。

 一番のおすすめは、今年1月に文庫化された伊藤典夫編訳のヤング短編傑作選『たんぽぽ娘』(河出文庫)。本邦初訳の掌編「神風」(1984年)をこの本で初めて読んで、晩年の著者が美少女型の爆弾を書いてたことに驚きました。ライトノベルの専売特許かと思ったら、巨匠のほうが早かったとは……。その他、牧歌的な博物館SF「エミリーと不滅の詩人たち」や、植民惑星を舞台にジャンヌ・ダルクの物語をロマンスSFとして語り直す「ジャンヌの弓」も楽しい。

(書評家、翻訳家)


=2015/06/17付 西日本新聞朝刊=

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