<10>時を超える「愛の手紙」【ゲイルズバーグの春を愛す】

西日本新聞

 きのう紹介したロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」の初出は、ノーマン・ロックウェルの表紙で有名なアメリカの高級週刊誌〈サタデー・イブニング・ポスト〉。最盛期は100万部を超え、原稿料が高いことでも有名。それだけに、この雑誌から数々の名作が生まれている。同誌1959年8月1日号に掲載されたジャック・フィニイ「愛の手紙」もそのひとつ(福島正実訳、ハヤカワ文庫FT『ゲイルズバーグの春を愛す』に収録)。著者は古き良き時代の女性との“時を超えた恋”を描きつづけた作家で、「愛の手紙」も時代を隔てた相手との文通がテーマ。

 時は1961年。語り手の“ぼく”は、古道具屋で買った年代物の机の隠し引き出しから、80年前に書かれた手紙を見つける。それは、ヘレンという女性が空想上の思い人に宛てたラブレターだった。その文面に魅了された“ぼく”は衝動的に返信をしたため、古い郵便局のポストに投函(とうかん)する。1週間後、もうひとつの引き出しを開けると、そこにはヘレンからの返事が……。

 隠し引き出しが三つというのがミソで、いま読んでも、すごくよくできてます。原題は“Love Letter”。以前、時間SFロマンスを集めた『不思議の扉 時をかける恋』という中高生向きのアンソロジーを角川文庫で編んだとき、自分で新訳して、現代風に「机の中のラブレター」という訳題をつけたんですが、やっぱり「愛の手紙」のままのほうがよかった気が。

 この短編以降、“時を超える文通”という魅惑的なモチーフは、さまざまなかたちで変奏されてきた。映画では、岩井俊二監督の「Love Letter」と、それに影響を受けた韓国の「イルマーレ」が典型例。日本の小説だと、朱川湊人「栞の恋」とか、万城目学「長持の恋」とか。時間の壁に隔てられているため、男女が直接会えないのがポイント。時間ものとロマンスはもともと相性がいいんですが、中でもこういう“時代差ラブストーリー”はとくに人気が高い。みんなやっぱり、叶(かな)わぬ恋が好きなのか。

(書評家、翻訳家)

=2015/06/18付 西日本新聞朝刊=

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