<11>タイムトンネルの向こう【およね平吉時穴道行】

西日本新聞

 この5月、集英社の創業90周年記念事業として、《冒険の森へ》と題する全20巻の小説大全の刊行がスタートした。『復活する男』とか『極限の彼方』とか、巻ごとにテーマを決め、冒険小説やハードボイルドを中心に、長編・短編・掌編の、とにかく面白い物語を集めるという趣旨なんですが、10月に出る第8巻『歪んだ時間』は、巻名どおり“時間”がテーマ。浅田次郎『地下鉄に乗って』、山田正紀『竜の眠る浜辺』の2長編ほか、時間旅行ものを軸にセレクトされている。その巻末解説を受注したんですが、収録作のうち、久々に再読してつくづく感服したのが、半村良の短編「およね平吉時穴道行」(角川文庫の同名短編集に収録)。

 半村良のタイムスリップものといえば、2度も映画化された『戦国自衛隊』が有名ですが(ハロー!プロジェクトのメンバー主演の舞台化も2度)、語り口のうまさと完成度では「およね平吉…」に軍配が上がる。

 語り手は、著者自身を思わせるコピーライターの“私”(半村良も、作家になる前はコピーライターだった)。自身が山東京伝にハマったいきさつをエッセイのように語り起こし、広告マンの元祖と京伝を賞賛する一方で、ライバルの馬琴については、絵心もセンスもない吝嗇(りんしょく)漢とこき下ろす。やがて“私”は、親類の荒物商から、京伝にゆかりがあるらしい文書を譲り受ける。「月と葦 浮いたばかりの 土左衛門」という句が記された墨画と、日記らしき和綴本。後者の内容を少しずつ解読するうち、書き手の平吉が、京伝の妹のおよねに惚(ほ)れていたことがわかってくる。およねも、兄に負けない才能の持ち主だったが、若くして神隠しに遭ったらしい……。

 このあたりのまことしやかなストーリーテリングはまさに名人芸。小説はそこから現代の出来事につながり、意外な場所に開いたタイムトンネル(=時穴)の存在が明らかになる。16日に紹介した広瀬正の名作『マイナス・ゼロ』を意識して書いたような節もあり、読み比べると面白い。ちなみに平吉は、著者の長編『どぶどろ』の主人公です。

(書評家、翻訳家)

=2015/06/19付 西日本新聞朝刊=

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