<12>時間遡行の反作用【クロノス・ジョウンターの伝説】

西日本新聞

 時間SFにはロマンスがよく似合う。だからこそ、前に紹介した「たんぽぽ娘」や「愛の手紙」のような小説がたくさん書かれているわけですが、日本にも、時間SFロマンスの名手がいる。その名は梶尾真治。デビュー作「美亜へ贈る真珠」からして、違う時間を生きる恋人同士を描く切ないラブストーリーだったし、そのものずばり、『タイムトラベル・ロマンス』という題の名作SF案内まで出している。その梶尾真治が正面から時間旅行にチャレンジした連作が『クロノス・ジョウンターの伝説』。少しずつ内容(収録作)の違う同じ題の本が何種類も出てますが、今年2月に発売された徳間文庫版が、加筆修正のうえシリーズ全7話を収録する決定版(巻末には年表と辻村深月の解説つき)。

 題名のクロノス・ジョウンターとは、カジシン流のユニークなタイムマシン。クロノスは時間を意味し、ジョウンターは、ベスター『虎よ、虎よ!』に出てくるジョウント効果(瞬間移動能力)に由来する。要は、時の流れを超えて物質を過去に飛ばす機械ですね。ただし、この時間移動には反動がある。過去に飛ばされたものは、その時点に長くとどまることができず、振子のように戻ってくると、現在を飛び越してさらに未来へと飛んでしまう。遡(さかのぼ)る時間が長ければ長いほど反動も大きくなり、自分が生きている時代には帰ってこられない。その制約にもかかわらず、なんとかこの機械を使って過去を改変し、愛する相手を救おうとする人々のドラマが、連作を貫く軸になる。

 たとえば、第3話「鈴谷樹里の軌跡」は、小学生の時に出会った難病の青年ヒー兄ちゃんのことが忘れられず、過去に赴いて彼の命を救おうとする女性の物語。ヒー兄ちゃんが樹里に語り聞かせてくれるお話として「たんぽぽ娘」が紹介される。こんなふうに、実在のSF作品がいくつも出てくるのも本書の魅力。この「鈴谷樹里の軌跡」は、「この胸いっぱいの愛を」の題名で映画化(話はぜんぜん違います)。また、全7話のうち4話は演劇集団キャラメルボックスが舞台化している。

(書評家、翻訳家)

=2015/06/22付 西日本新聞朝刊=

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