【生きる 働く 第6部】ブラック企業 現場の叫び<1>求人情報 数々のわな

西日本新聞

転職先をなぜブラック企業と見抜けなかったのかと自責の念にかられる貴弘さん 拡大

転職先をなぜブラック企業と見抜けなかったのかと自責の念にかられる貴弘さん

 今なら理解できる。そのときは意味が分からなかった。

 3年前、不動産会社に転職した貴弘さん(42)=仮名=は、入社1週間後に開かれた退職者4人の「合同送別会」の席上、自分を面接した当時の男性上司からひたすら謝られた。

 「ごめんね、ごめんね。僕が辞めることができる条件が、同業他社から5人引き抜くことだったから…」

 妻と幼い子ども3人を養うため、より良い条件を求めて10年以上勤めた不動産会社を依願退職。当時の年収は約580万円。「条件を満たす求人はハローワークにはないだろう」。キャリアを生かせる同業で給与水準が下がらないことを条件にインターネットで検索した。「スタートは月給25万円だが、力を発揮すればどんどん上がる」。面接での誘い文句を信じ、転職先を選んだはずだったが…。

 配属された支店には約50人の営業マンがいたが、机は30席ほどしかなかった。業務で使うパソコンは当初は支給されなかったが、離職者が出ると回ってきた。最初は不思議だったが、次々に誰かが辞めて誰かが入社してくる。出入りが激しいのでこれで事足りることが次第に分かってきた。

 仕事は過酷だった。深夜、未明までの残業は当たり前。たまに午後9時ごろ帰ろうとすると上司から「みんながいるのに何で帰るんだ! 仕事がなくてもみんなと一緒にいろ!」と叱責(しっせき)された。休日も「公休だから昼から出てきていいよ」と平気で言われた。なのに、勤務表は定時の午前9時~午後6時に入力しないとはねつけられた。

 営業車は4台しかなかった。私用のミニバイクで営業に回っていたとき車との接触事故を起こした。救急車で搬送された病院で、鎖骨を折っていると診断された。上司に報告すると「休みの日にプライベートで事故したことにしといて。まさか労災って言い出すんじゃないよね」。辞職を決意した。

 異常な長時間労働や残業代未払いなどで、主に若者を使いつぶす「ブラック企業」。大量に採用し、大量の離職者を出すのが典型パターンだ。入社の際には、月収の誇張や虚偽の条件での募集など、わなが仕掛けられている。

 貴弘さんの場合も正社員で募集されながら、実は契約社員だった。「半年の試用期間が終われば正社員になる」と言われたが辞めるまでの2年間、契約社員のままだった。月給25万円には月30時間の残業代が含まれていることも後で知らされた。「残業は30時間を超えることはない」と説明されたが、ゆうに月100時間は残業させられた。

 「募集内容は何もかもがうそだった。なぜ、気付くことができなかったのか。歯がゆい」。貴弘さんは今、自分を責める毎日を送っている。

    ◇    ◇

 人口減少や少子高齢化で人手不足が深刻化する中、過酷な労働条件で働く人を使い捨てるブラック企業が、法の網をかいくぐり、はびこっている。その巧妙な手口を紹介しながら、今後も登場するであろう新たな手法への防衛策を考えたい。

 【チェック】 大量採用には注意

 インターネットでの求人サイトは、求人する企業が広告料を払っているのがほとんど。いわゆる「求人広告」のため、企業に不利な情報は載りにくい。現状の社員数に対し明らかに多い採用計画には注意したい。職種や地域によって異なるが、大学新卒の初任給の相場は基本給17万~20万円。学者や弁護士らでつくる市民団体「ブラック企業対策プロジェクト」は、「27万円以上の提示には用心しよう」と呼び掛けている。採用後の試用期間は、面接だけではその人の性格、能力などが分からないため観察を行う期間。勤務態度が悪いなど合理的な理由があれば労働契約を解除できるが、一般的に半年間を超える長期の試用期間は認められず、原則延長もできない。契約した初任給を支払う義務があり、減額は許されない。


=2015/06/24付 西日本新聞朝刊=

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