<14>大風呂敷の醍醐味【時間封鎖】

西日本新聞

 SFの魅力のひとつは、いくらでも大風呂敷を広げられること。会社? 国家? 小さい小さい。せめて地球とか人類とか、そのくらいのスケールで考えなきゃ。

 とはいえ、とてつもない大風呂敷と小説の説得力を両立させるのは至難の業。その難題を華麗にクリアしたのが、2006年のヒューゴー賞に輝くロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』(茂木健訳、創元SF文庫)。邦訳も、09年の星雲賞海外長編部門を受賞している。

 物語は、3人の少年少女が星空を見上げる初々しい場面で幕を開ける。だが、彼らが目撃したのは、夜空のすべての星が(月もろとも)消えてしまう、未曽有の大事件だった。いったいなにが起きたのか?

 翌朝、東の空からは、なにごともなかったように太陽が昇ってくる。だがそれは、黒点もフレアもない、偽物の太陽だった。調査の結果、地球全体が黒いシールドのようなもの(まさに大風呂敷!)ですっぽり覆われていると判明。しかも、外の宇宙とは時間の流れかたが違っている。地球の時間だけが、1億分の1の速度に低下していたのだ! つまり、地球上の1年は、外の宇宙での1億年に相当する。

 でもまあ、地球にいる分には関係ないでしょ。と思うかもしれませんが、今から50億年後には、太陽が膨張して地球を呑(の)み込んでしまう。はるか遠い未来の話だった地球滅亡の危機が、わずか50年後に迫る。生き残るには、どうにかしてシールドの外に出るしかない。脱出先の第1候補は火星。1億倍の時間差を利用して、壮大な火星移住計画が始まった……。

 というわけで、本書は大風呂敷の時間SFであり、前代未聞の火星開拓SFでもあるというレアな長編。しかも、冒頭に出てくる3人の人間ドラマを軸に、じれったい恋愛模様などもはさみつつ進んでいくから、SFに馴染(なじ)みがない人もとっつきやすい。この巻で積み残された謎(どこのだれがなんのために地球を風呂敷でくるんだのか)も、続編の『無限記憶』と『連環宇宙』で鮮やかに解決されるのでご安心を。

(書評家、翻訳家)

=2015/06/24付 西日本新聞朝刊=

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