【生きる 働く 第6部】ブラック企業 現場の叫び<3>辞められずうつ病に

西日本新聞

 その会社では、最下位のヘッドチーフに始まり、ゼネラルチーフ、サブマネジャー、マネジャー、ゼネラルマネジャー、ディレクター、プロデューサーまで7段階の管理職がいた。

 7年前、浩太郎さん(30)は福岡県内の大学から新卒で量販店に正社員で採用された。入社2年後、ある店舗の売り場全体を統括するヘッドチーフに昇進した。本部の上司から「頑張れよ」と肩をたたかれたが、「管理職になるから残業代はでない。月給32万円ぽっきり」と告げられた。浩太郎さんは昇進前、基本給に残業代を加えると既に32万円程度もらっていたので、収入は全く増えなかった。それでも「もっと上の管理職になれば給与は上がるぞ。がむしゃらに働け」とハッパを掛けられた。

 24時間営業の店舗を任された。午後4時から翌朝の午前6時まで14時間ぶっ通しで働く毎日。会社が用意した店舗の目の前のアパートに住み、非番で寝ていても深夜に頻繁に呼び出しが掛かった。生活の全てが仕事で埋め尽くされた。食欲がなくなり、眠れない夜も続いたが「新卒採用だったのでそれが当たり前だと思っていた」。

 ついに朝起きることができなくなった。「迷惑をかけるので会社を辞めたい」と告げると「辞めるな」と引き留められ、店舗替えが決まった。そこでも過酷な労働は同じ。「忙し過ぎて何も考えられなくなっていった」。辞めることができたのは、うつ病を発症した後だった。

 食い付いた「獲物」を逃さない。社員を思考停止状態に追い込み、辞めさせずに心身が壊れるまで使いつぶす-。こうした「ブラック企業」は最近、不当な損害賠償を請求し、弁償が済むまで辞められないと思い込ませる手口まで編み出している。

 福岡市内のスーパーで店長をしていた翔平さん(28)は上司から「ノルマ達成まで家に帰れると思うなよ」と毎日怒鳴られた。深夜まで働いても残業代も出ない。「辞めたい」と上司に申し出ると、「おまえの教育にどれだけ会社が金を掛けたと思っているんだ!」と辞めさせてもらえなかった。

 それでも辞表を提出し、出勤しないでいると…。「ノルマ未達」「仕入れで損を出した」「入社してから10年間の教育費」。いろんな理由を挙げられ、1千万円の損害賠償を求める請求書を送りつけられた。書面には弁護士の署名もあった。

 労働者には理由を問わず、いつでも退職できる権利が憲法で保障されている。会社に損害が発生したとしても、高額の賠償金を支払わなければならない義務はない。会社の請求書を作成した弁護士も当然、それは分かっているはずだ。にもかかわらず、ブラック企業の違法行為に加担する弁護士や社会保険労務士などの「ブラック士業」が存在する。「法律の知識はないし、訴訟するなんて思い付きもしないだろう」と高をくくった「共謀」が透けて見える。

 泣き寝入りして、会社側の要求通り払う人もいるが、翔平さんは訴訟を起こした。次の就職が決まっており、過去のトラブルを早く解決したかった。結局、50万円を会社側に支払うことで和解した。それが自分にとって正解だったのか、今でも引っかかっている。

 (文中仮名)

 【チェック】 自由に退職可能

 残業代が支払われない例外の一つが、一般的に管理職と呼ばれる「管理監督者」だが、会社から管理職といわれているからといって該当するわけではない。管理監督職と判断されるハードルは高い=表参照。入社間もない若手を「名ばかり管理職」にし、残業代を払わないのはブラック企業の典型的な手口であり注意したい。会社を辞める際、労働者は原則2週間前までに辞職する意向を示せば自由に辞職できる(民法)。使用者が損害賠償をちらつかせて辞めさせないよう脅しても、「教育費」「人材の確保」などは経営者のコスト。判例によると、通常の労働をしてあり得るミスで損害賠償を負うことはまれ。きっぱり辞職の意思を示そう。


=2015/06/26付 西日本新聞朝刊=

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