葛藤の現場から~「知日派」はいま 政治家(下)地味で危険な役回り

西日本新聞

日韓大学生討論会の参加者らと記念撮影する閔丙珠氏(中央)。主催者と九州大を橋渡しした=5月18日、ソウル 拡大

日韓大学生討論会の参加者らと記念撮影する閔丙珠氏(中央)。主催者と九州大を橋渡しした=5月18日、ソウル

 日韓の若者がつながる喜びが穏やかな表情ににじんでいた。5月18日、ソウルで開かれた日韓大学生討論会。来賓席に与党セヌリ党の女性国会議員、閔丙珠(ミン・ビョンジュ)氏(56)の姿があった。

 閔氏は1984年から5年間、福岡市の九州大と同大学院に通った。専門は原子核物理。韓国原子力研究所の元研究員で、今では少なくなった日本語を話せる国会議員の一人でもある。

 討論会には韓国に留学中の九大生が参加した。主催者から相談を受け、古巣の九大に橋渡しをしたのが閔氏だった。「お互いに相手の考えを知らないと意識のギャップはもっと広がる。若者の交流は次世代の両国関係のためです」

 しかし、ひとたび国会に戻れば、全く異なる風景が広がる。

 安倍晋三政権の発足後、韓国の国会が採択した対日決議は2年半で16件。5月12日には安倍氏の言動を糾弾する決議が採択され、菅義偉官房長官が「非礼と言わざるを得ない」と強い不快感を示した。

 「政治面では、お互いの信頼関係がなくなっている」。閔氏は多くを語らない。

    ◇    ◇    

 日本との議員外交を進める韓日議員連盟。閔氏を含めて超党派の157人が名を連ねる。相次ぐ対日決議にどう向き合っているのか。

 2013年4月、日本の閣僚の靖国神社参拝などを糾弾する対日決議案の国会審議。原案には「(日本は)離れ島に孤立した三流国家に転落するであろう」と書かれていた。感情に任せた強い非難の表現だった。

 「品格も考慮する必要がある」。議連の中心メンバーで知られるセヌリ党議員が、委員会審議でやんわり指摘した。これをきっかけに与野党で修正案が協議された。

 決議は本会議で採択されたが、表現は「国際社会からの孤立と非難を免れない」と弱められた。感情論をいさめた議員の発言は、メディアから「親日」批判を浴びせられかねない状況で「勇気がいったと思う」と日韓外交筋は推し量る。

 だれからも評価されない地味で危険な役回り。一連の発言は韓国で、公式記録の国会議事録が伝えるだけだ。

    ◇    ◇    

 「地元への貢献」を意識せざるを得ない政治家にとって、外交は「票」にも「カネ」にもならない。日韓関係のために時間と労力を割こうという議員は、両国ともにそう多くはない。

 友好への思いもなかなか伝わらない。2年前に訪日した閔氏は、久しぶりに友人の日本人女性に電話をした。日本に住んでいたころに仲が良かったその友人は、よそよそしかった。

 韓国によい印象を持っていないことが電話越しに伝わってくる。友人は韓国の国会議員になった閔氏との再会を避けた。閔氏はショックを受けた。

 韓国では来年4月、総選挙がある。国会の対日批判はさらに強まる可能性がある。政治家にとって、だれも敵に回すことなく「愛国心」を有権者にアピールする絶好の機会となる。

 12年の初当選時に比例代表だった閔氏は、地元の大田市の選挙区から再選を目指す。「知日派」の看板は選挙にプラスにならない。それでも「民間交流を通じて日韓の理解と協力を深めたい」との気持ちに変わりはない。

 誘惑に惑わされず、沈黙を貫く。そこに「知日派」議員たちの強い信念があることを、まだ多くの日本人は知らない。

=2015/06/17付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ