【生きる働く】派遣法改正案 「生涯派遣」「雇い止め」懸念大

西日本新聞

 労働者派遣法改正案が衆議院を通過した。派遣期間の制限を事実上なくすもので、30年前の制定時の考え方とは大きく変わる。成立する公算が大きく、施行は9月の予定。派遣社員の働き方にどう影響するのか。派遣労働をめぐる動きを振り返りながら、考えた。

 《一般事務の派遣社員として2年間働いている30代のAさん。正社員と同様の仕事を任され、仕事を教えることもある。残業やスキルアップのための勉強もいとわず、正社員になることを目標に働いてきたが、「会社は派遣を使い続けるようになるかも。正社員への道が遠のき、『生涯派遣』になってしまう」と不安を訴える》

 現行法では、同じ仕事で派遣社員を受け入れられるのは最長3年。派遣は「臨時的・一時的」という原則に基づくものだ。3年を超えて続く仕事は、業務をなくすか、正社員に任せるなどの対処が必要となる。

 派遣法が制定されたのは1985年。当時、派遣は「原則禁止」で、通訳など専門性の高い業務だけを例外的に認めていた。99年に対象業務が原則自由化。2004年に製造業への派遣が解禁されるなど、規制は大幅に緩和されてきたが、この「臨時的・一時的」という原則は守られてきた。

 しかし今回の改正案では、労働組合などの意見を聴いた上で人を入れ替えれば、同じ仕事をずっと派遣に任せられるようになる。派遣社員は正社員より待遇が低く、契約の切れ目で雇い止めしやすいなど企業にとって負担が少ないため、改正後は派遣の利用が進むと懸念されている。

    §   §

 《40代のBさんは出版社でウェブ制作の仕事をしている。出産後から派遣社員として職場を転々としたが、長期で安定して働きたいと思い、スキルを身に付け、専門26業務にあたる今の職場に2年前に就職した。今回の法改正について派遣会社に確認すると、「3年で雇い止めになる可能性が高い」と言われた。「この年で転職なんて無理」と胸中を打ち明ける》

 Bさんのような仕事や秘書、通訳など「専門26業務」は働く期間に上限はない。派遣社員約127万人のうち26業務で働く人は、約4割の約50万人に上る。

 改正案では、この業務区分をなくし、全ての派遣社員が同じ職場で働ける上限が一律3年となる。26業務には、パソコン操作やファイリングなど一般事務と区別しにくいものもありルールが「分かりにくい」との声があったからだ。

 派遣会社と無期雇用契約を結べば、例外的に同じ職場で働き続けられるが、派遣社員全体に占める無期雇用は2割弱にとどまる。特に中高年の転職は正社員でも難しいため、雇い止めに対する不安の声は切実だ。

    §   §

 厚生労働省の2012年の調査では、派遣労働者のうち正社員を希望する人と、派遣を続けたい人はいずれも約4割だった。安倍晋三首相は、制度改正の意義を「派遣の道を選ぶ人には待遇改善、正社員を希望する人には正社員の道を開く」と強調する。

 改正案では、派遣会社に対し、派遣労働者のキャリアアップに向けた教育訓練実施のほか、派遣期間が3年に達した労働者のために派遣先に直接雇用を依頼することなどの義務付けを盛り込んだ。ただ、直接雇用は頼むことが義務にすぎず、派遣先は断れる。労働組合などからは実効性を疑問視する声がある。

 「派遣労働者の待遇改善につながる」と主張する政府・与党と、「不安定な雇用が拡大する」と批判する民主党などの野党。賛否の溝は埋まらないまま、法案は成立へ向かう。どちらの主張が正しいのだろう。

 景気が悪化し、真っ先に影響を受けるのは派遣労働者をはじめとした非正規労働者だ。08年のリーマン・ショック後「派遣切り」に遭い、生活保護を受けた経験のある男性は「もう誰にもこんな思いをしてほしくない」と話していた。その声を真剣に受け止め、今後の動向を注視したい。


=2015/07/04付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ