<22>越境するロボット【vN】

西日本新聞

 先週は、星新一「ボッコちゃん」に始まって、日本が誇るロボットSFの名作をいくつか紹介しましたが、もちろん海外でも、アイザック・アシモフ『われはロボット』の昔から(いや、そもそもロボットという言葉の語源になったカレル・チャペックの戯曲『R.U.R.』の時代から)、ロボットSFはたくさん書かれている。というか、僕自身、SF翻訳者として、ロボットものはけっこうたくさん翻訳してきた。フィリップ・K・ディックの古典的名作短編「にせもの」から、バリントン・J・ベイリーの『ロボットの魂』『光のロボット』2部作、ルーディ・ラッカーの『フリーウェア』、さらにはテッド・チャンの中編「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」まで。占有率から言えば、“ロボット翻訳者”を名乗ってもいいんじゃないかと思うくらいですが、その大森が翻訳したいちばん新しいロボットSFが、昨年末、《新☆ハヤカワ・SF・シリーズ》から出たマデリン・アシュビーのデビュー長編『vN』(原書2012年刊行)。

 時は、vNと呼ばれる自己複製能力を持つヒト型ロボットが一般化した未来。ヒロインのエイミーは5歳のvN。食事制限によって成長速度を抑え、人間の子どもと一緒に保育園に通っていたが、晴れの卒園式に、とつぜん祖母(母の母にあたるvN)が襲来。エイミーは惨劇の当事者となる。愛する両親の庇護(ひご)を離れ、ひとりで生きていくことになったアンドロイド少女の運命やいかに?

 著者は1983年、カリフォルニア州パノラマ・シティ生まれの女性作家。「攻殻機動隊」や「新世紀エヴァンゲリオン」を俎上(そじょう)に載せて修士論文を書いたほどの日本アニメ通とあって、この『vN』にも、押井守監督の劇場アニメ「イノセンス」にインスパイアされたとおぼしきアクション・シーンをはじめとして、数々のANIMEネタがちりばめられている。日本のロボットアニメで育った米国人女性の手になるロボットSFが日本に逆輸入されたわけですね。けだし、ロボットは国境を越える。

(書評家、翻訳家)

=2015/07/06付 西日本新聞朝刊=

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