【和食力】昆布 産地で違う味わい だしへの注目 海外でも

西日本新聞

次男の亮さん(右)と店を営む中川敏行さん 拡大

次男の亮さん(右)と店を営む中川敏行さん

最長5メートルにもなる真昆布を手にする吉田和弘さん。55センチずつ折った状態で置くのが基本

 「博多の台所」と呼ばれる柳橋連合市場に隣接する雪吉昆布専門店(福岡市中央区)の店主、吉田和弘さん(72)は約20年前の出来事が忘れられない。

 「いつものと違うやろ。味が出てないよ」。茶懐石の名店「中伴」(同)の主人、中川敏行さん(62)からのクレームだった。前日夜、水に漬けた昆布のだしは「薄っぺらな味」に感じたという。いつもの、とは2年以上寝かせた利尻昆布。不作などから品切れとなったため1年物を使ってもらっていた。親戚から雪吉を継いで約10年、味を見極める料理人の舌と昆布へのこだわりを思い知った。

 茶懐石とは茶の湯で茶を味わう前の料理。「最後に出す抹茶一椀(わん)のためにある」(中川さん)。最初に炊きたてのご飯とみそ汁が出る。みそ汁の味を決めるのはかつお節、それに昆布からひいた、だしだ。「最初の一口で味わうだしがおいしければ、続く料理もどんなにおいしいかと期待してもらえる」。懐石の世界に四十数年、身を置いてきた料理人は言い切る。「昆布がなかったら和食は成り立ちません」

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 だしの大本になる昆布は大きく分けて4種類。真(ま)昆布、利尻昆布、羅臼(らうす)昆布、日高昆布で、地域によって好みは分かれる。吉田さんによると、福岡はこくがあって香りも強い羅臼、東京は香りが独特の日高を用い、大阪は真昆布がほとんどを占める。

 京都の老舗で修行した中川さんは「澄んだ上品な味が特徴」の利尻を使う。吉田さんは最高級とされる礼文島の香深(かぶか)浜産利尻をはじめ、博多の多くの老舗のため天然物を確保している。

 「15キロを100束買って」「今年は不作だから40束ほどしか無理でしょう」。毎年秋、福井県敦賀市の老舗問屋とこんな会話を交わし、1年分を北海道で買い付けてもらう。仕入れ後は問屋の低温庫に預けて寝かせ「角が取れて丸くなった香り」(中川さん)豊かな昆布を店々に届ける。

 かつては毎月買えば済んでいたが、20年ほど前から極端に不作の年が出てきた。枯渇しかけて各地の問屋から買い集めるなど苦労した年も。それ以来、1年分をまとめ買いするようになった。海の栄養をため込むように育つ昆布は自然がもたらす恵みなのだとあらためて感じる。吉田さんは「寒くなって成長する昆布だから地球温暖化の影響が心配です」と話した。

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 水に一晩漬けるだけでだしが取れる昆布は、自然の滋養と長期熟成など先人の知恵が詰まった「究極のインスタント食品」だろう。その「うま味」は甘味、塩味、酸味、苦味に加えて第5の味覚として海外でも知られるようになった。雪吉にも地元のフランス、イタリア料理の店主も訪れる。「昆布だしの素晴らしさが見直されていると感じる」。一方で「例えば料理学校を卒業して寿司店で修行している若者でも昆布の種類さえ知らない。一般家庭で使われなくなっているからでしょう」と嘆く。

 雪吉には料理人に交じって一般の買い物客も訪れる。福岡市城南区の女性(65)はこの日も羅臼200グラムを買い求めた。忙しい娘さん家族にだしを持っていくためだ。だしを取った昆布は細かく刻み、漬物に混ぜたり野菜と炒めたりして食べるという。「少し手をかければおいしい料理ができる。孫の健康も考えて昆布を使います」

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 【ワードBOX】昆布

 昆布はミネラルが豊富で牛乳の約23倍、カルシウムは約7倍含まれる。消化吸収率が高く80%が体内に吸収される(日本昆布協会ホームページより)。昆布のグルタミン酸と、かつお節のイノシン酸のうま味成分が一緒になると相乗効果が生まれ「1+1が4にも5にもなる」(中川敏行さん)。


=2015/07/08付 西日本新聞朝刊=

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