<26>臨死体験の真実【航路】

西日本新聞

 きのう紹介した長谷敏司『あなたのための物語』と同じく、“死”をテーマにした現代SFと言えば、コニー・ウィリス『航路』上下(ハヤカワ文庫SF)は外せない。自分の訳した本ですみませんが、これは、『ドゥームズデイ・ブック』はじめ、歴史観察系のタイムトラベルSFシリーズで知られるウィリスが、現代の病院を舞台に、持ち前の天才的なストーリーテリング術を駆使したメディカル・エンターテインメント巨編。

 舞台はコロラド州デンヴァーの総合病院。臨死体験を研究中の認知心理学者ジョアンナは、この病院にオフィスをかまえ、心停止の連絡があるたびに患者のもとに駆けつけ、蘇生後の回復を待って話を聞き、データを集めている。暗いトンネルを抜けるとまばゆい光が見え、死んだ親族が出迎える--というのが典型的な臨死体験だが、なぜ彼らは同じようなイメージを見るのか?

 一方、臨死体験は死に直面した脳の生存戦略だと考える若い神経内科医リチャードは、新開発の薬物ジテタミンが臨死体験そっくりの幻覚を誘発することを発見。この薬を使って、脳内で起きる生化学的な変化を画像として記録する実験を立案した彼は、共同研究者としてジョアンナに声をかける。

 だが、いざ実験をはじめてみると、あらかじめ集めておいた志願者が次々に不適格だと判明、とうとうジョアンナが被験者を買って出ることに。ジテタミンを投与された彼女は、擬似臨死体験でいつも同じ場所へと赴く。行ったことはないけれど、たしかに知っている場所……。いったいここはどこなのか?

 問題の“場所”がついに判明するところで第1部が終了。第2部で臨死体験の真の意味が解明されるが、その直後、驚愕(きょうがく)の展開が……。

 この本筋に、臨死体験はあの世が実在する証拠だと主張するトンデモ系のベストセラー作家や、世界の災害を扱った本を集めて病室で読みふける心臓病の少女メイジーとか、魅力的な脇役たちがからみ、読者を飽きさせない。訳者の手前ミソながら、SFファン以外にも読んでほしい、胸を打つ傑作です。

(書評家、翻訳家)

=2015/07/10付 西日本新聞朝刊=

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