<31>超弩級の黙示録SF【ブラックライダー】

西日本新聞

 又吉直樹の受賞に沸く芥川賞ですが、直木賞は東山彰良(あきら )の『流(りゅう)』が満場一致でめでたく受賞。「20年に一度の傑作!」という絶賛も飛び出す高評価でしたが、同じ著者の『ブラックライダー』(新潮社)は、その『流』をも凌(しの)ぐ(と大森が勝手に思っている)大傑作。なにしろ本文1行目からして、〈フィッシュ葬儀社の三男坊が人を殺してその肉を食べたこと自体は、まあ、目くじらをたてるほどのことでもない〉と、読者の度肝を抜く。

 背景は、6・16と呼ばれる大災害と、それに伴う急激な気温低下によって世界人口が激減し、文明が崩壊した未来。アメリカ大陸では牛が絶滅し、食糧生産は途絶え、人間が生きるためにたがいの肉を食らい合う“弱肉強食”の世が到来した。

 しかしやがて、東部の科学者が、保存されていた牛の遺伝子と人間の遺伝子を混ぜて、新たな食用“牛”を開発。2本足で歩くこの新しい牛を育てることで、人肉を食べなくても生きていけるようになった--というのが小説の現在。とはいえ、人肉食の習慣はなかなか抜けず、油断するとすぐ食われてしまうのは今も変わらない。この突拍子もない設定のもとに語られる3部構成の第1部は、なんと西部劇。保安官の主人公が懸賞金を目当てに、悪逆非道の列車強盗団を追いかける。

 第2部の主人公は、メキシコの農園で人と牛の間に生まれた牛腹の子(ヒオ・デ・バカ)、マルコ。農園主にその知性を見込まれて連れ出されると、3年で読み書き算術を学び、射撃と格闘術を習得する。“金色の髪と、ぬけるように白い肌と、物憂げな青い瞳”を持つ美少年に成長したマルコは、みずからの使命に目覚め、“蟲”と呼ばれる寄生虫の大流行に真っ向から立ち向かう。かくして、新たなる救世主の伝説が始まった……。

 第3部では、保安官と救世主、両者が相見え、壮大な戦争アクションの火蓋(ひぶた)が切って落とされる。これほど独創的で力強い終末SFは、世界を見渡しても例がない。原発事故の悲劇を経て生まれた、超弩級(どきゅう)の黙示録エンターテインメント。東山彰良は『流』だけの作家じゃない! 

(書評家、翻訳家)

=2015/07/20付 西日本新聞朝刊=

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