<33>呪力が支配する未来【新世界より】

西日本新聞

 きのう紹介した上田早夕里『華竜の宮』と同じく、大きく変貌した遠未来の日本を描くのが、TVアニメ化もされた貴志祐介のベストセラー『新世界より』(講談社文庫)。『華竜の宮』より3年早く、2008年の第29回日本SF大賞を受賞した。

 SFに不慣れな人でも楽しめる第一級の冒険エンターテインメントですが、同時に“世界の秘密”を核に据えて、センス・オブ・ワンダー(驚きの感覚)を存分に味わわせてくれる本格SFでもある。

 物語の舞台は、利根川の下流に位置する神栖66町(現在の茨城県神栖市付近)。語り手は、結界に閉ざされたこの町で生まれ育った39歳の渡辺早季。小説は、彼女の少女時代の回想で幕を開ける。

 この世界の特徴は、科学技術のかわりに呪力と呼ばれる一種の超能力が使われていること。成長して呪力を発現させた子供たちは、その正しい使い方を学ぶため、“全人学級”に入る決まり。一種の魔法学校みたいなものなので、学園生活の描写は『ハリー・ポッター』風。しかし、本書の最大の特徴は、神栖66町周辺に棲息(せいそく)する奇妙奇天烈な生物群にある。バケネズミ、フウセンイヌ、カヤノスヅクリ、フクロウシ……。

 今からわずか1000年後なのに、なぜこんなにたくさんの異様な生物が誕生したのか。どうして科学じゃなくて呪術なのか。再三言及される悪鬼・業鬼とは何か。さまざまな謎を秘めたままゆっくり動き出した物語は、上巻167ページ、ミノシロモドキの登場シーンからから一気に加速、下巻の怒濤(どとう)のクライマックスへと雪崩(なだ)れ込む。

 本書の原型というか卵は、1986年の第12回ハヤカワSFコンテストで佳作に選ばれた中編「凍った嘴」(岸祐介名義)。それを20年あまりかけて育て上げた『新世界より』は、骨格こそSFだが、プロットはミステリー、モチーフは伝奇とファンタジー、山場はモダンホラーと戦争活劇。少年小説の瑞々(みずみず)しさもあれば、冒険小説のスリルもある。あらゆるジャンルの面白さをぶちこんで疾走する、波瀾(はらん)万丈一気通読の娯楽作だ。 

(書評家、翻訳家)

=2015/07/22付 西日本新聞朝刊=

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