【和食力】自然との共生 底流に 映画「千年の一滴 だし しょうゆ」

西日本新聞

畑に火を放つ椎葉クニ子さん 拡大

畑に火を放つ椎葉クニ子さん

 九州山地の山深い森で伝統の焼き畑農業を続ける椎葉クニ子さん(91)=宮崎県椎葉村=も主人公の一人として登場する。木の幹に耳を当て、樹液の流れが止まっているかどうかを確かめる。木を切り倒す時機を知ろうと「森の声」を聞いているところだ。

 日仏合作のドキュメンタリー映画「千年の一滴 だし しょうゆ」の一場面。和食にとって最も大切な「だし」と、欠かせない調味料「しょうゆ」を素材に自然の恵みを生かす和食の世界を描いている。

 作品は2章で構成される。第1章の「だし」はシイタケ栽培の椎葉さんのほか、北海道のコンブ漁師、鹿児島県のかつお節作り職人が登場する。第2章の「しょうゆ」は京都市の蔵元、こうじ菌の大本を一子相伝で守り育てている種こうじの店が舞台。日本にしかいないこうじ菌によって、四季を経て製造する様子を紹介する。いずれも先人の知恵を受け継いで自然と向き合う人たちの営みが、静謐(せいひつ)に美しく映し出される。

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 作品は2013年12月に放送したNHKスペシャル「和食」をベースに、柴田昌平監督がフランス人プロデューサーや英国人の音楽担当ら海外のスタッフと仕上げた。日本の作品が海外で上映、放送されない現状に「忸怩(じくじ)たる思いを抱いてきた」という柴田監督は、「日本文化をテーマにした初の本格的な国際共同制作」によって「世界に受け入れられる作品」を目指したという。

 印象的なのは、カビの胞子や菌糸が成長するミクロの世界の神秘的な映像だ。蔵元などの取材と並行しながら、京都市内に借りた家の暗室でこうじ菌を培養。気温28度の室内にスタッフが張り付き、顕微鏡にカメラをセットして撮影した。何度も失敗してようやく得られた映像は「カビという微生物とすら共生してきた日本人のあり方と、発酵が彼らの命の営みであること」(柴田監督)が象徴的に迫ってくる。

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 自然を生かす英知を結集して作られる和食。映画は、味の基本が「だし」にある独自の食文化を築いたきっかけを仏教の伝来と説き、殺生を忌み嫌って禁止された肉食の代わりに模索した味がうま味だとする。

 修行僧が食事後に米粒を差し出し、鳥に与える場面がある。人は「他の命によって生かされている」という禅の教えから導かれる勤めだ。自然と共生してきた日本人の生き方が、和食の底流にあることに気づかされる。

 作品の編集をしながら柴田監督は「『いただきます』という言葉の根っこに思いをはせた」という。その思いと響き合うように、作品を見る側も、いただいた命と自然への感謝が湧き上がる。

 長い年月をかけて積み重ねた知恵によって丁寧に引き出される「だし」と「しょうゆ」。そうした和食の深みを味わうように、映画の一こま一こまは心の滋養となる。「本物」のだしやしょうゆが先細る今、あらためてタイトルの「千年の一滴」をかみしめた。

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 上映は福岡市・中洲の大洋映画劇場で、8月8~28日の予定。九州では既に5県で公開済み。同劇場=092(291)4058。

 ▼しばた・しょうへい 1963年、東京生まれ。映像作家。初監督作品「ひめゆり」(2007年)はキネマ旬報ベスト・テンの文化映画部門などで8冠に。このほかの作品に映画「森聞き」、NHKスペシャル「クニ子おばばと不思議の森」、同「世界里山紀行 フィンランド・森・妖精との対話」(独・ワールドメディアフェスティバル銀賞)など。海外での受賞作も多い。


=2015/07/22付 西日本新聞朝刊=

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