<34>植物が支配する未来【地球の長い午後】

西日本新聞

 奇怪な動植物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する未来--この魅惑的なイメージに関するかぎり、当欄で紹介した2作、貴志祐介『新世界より』と椎名誠『アドバード』はよく似ている。しかし、その理由は、前者が後者を模倣したからじゃなく、両者が同じ原点を共有しているから。その原点が、イギリスSFの古典的名作、ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫SF)。1962年に刊行されたこの小説は、エキゾチックで独創的な遠未来の光景によって日本の読者にも強烈なインパクトを残し、宮崎駿『風の谷のナウシカ』にも影響を与えたと言われる。

 時は今から数億年の未来。すでに地球の自転は止まり、太陽を向いた側は、永遠に昼が続く、巨大な“温室”(ちなみにこれが英国版の原題。邦題は米国版タイトルの翻訳)となっている。そこでは、すっかり変貌したさまざまな植物が、繁栄を謳歌(おうか)していた。ベンガルボダイジュはひとつの個体が大陸をまるまる覆うほど成長し、月と地球は長く伸びた蔓(つる)植物の橋で結ばれている。さしわたし1マイルもある巨大な歩行植物ツナワタリがその橋を伝い、地球と月の間を自由に行き来する。頑丈な箱みたいな口を持つヒカゲノワナ。樹皮に化けて獲物を待つオニクライ。フエアザミ、トビエイ、ハネンボウ、ヨダレギ、ハリリムチ……。

 そうしたジャングル世界で細々と生きる退化した人類の末裔(まつえい)、グレン少年が主人公。他の生物に寄生して移動する高度な知的生物(キノコの一種)アミガサダケにとりつかれ、一種の共生関係を結んだ彼は、ボイリーという少女とともに放浪の旅に出る……。

 小説の後半では、人類史の裏側に隠された驚愕(きょうがく)の真実が明かされ、生命誕生にまで遡(さかのぼ)る壮大なスケールのビジョンが提示される。

 なお、今月初めに竹書房文庫から邦訳された『寄港地のない船』(中村融訳)は、1958年に出たオールディスの第一長編。こちらは世代宇宙船ものの古典として知られるが、『地球の長い午後』にまっすぐつながるロードノベルとも読める。

(書評家、翻訳家)

=2015/07/23付 西日本新聞朝刊=

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