<35>日本SFの極北【皆勤の徒】

西日本新聞

 ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』や貴志祐介『新世界より』に描かれる遠未来は、変貌しているといっても人類が出てくるので、まだなじみやすい。2011年の第2回創元SF短編賞を受賞した酉島伝法「皆勤の徒」になると、すでに登場人物はだれも人間の姿をしていない。自分で書いた解説の一部を引用すると、〈冒頭一ページを見るだけで、ふつうのSFとかけ離れていることは一目瞭然。小説は、主人公にあたる従業者(その名もグョヴレウウンン)が、寝袋みたいな奇怪な生物から搾(しぼ)り出されてくる異様な出勤場面で幕を開ける。屠流々(とるる)だの唐櫃〓(からびつうつぼ)だのという生きものが生息するねちょねちょぬとぬとの不気味な世界で、「おまえは皆勤だけが取り柄(え)だな」などと罵倒されたみじめな過去を思い出しながら、今日も働くグョヴレウウンン。SF版「蟹工船」というか、ブラック企業で奴隷的に働かされるダメ社員みたいな立場らしいことがおぼろげにわかってきて親近感が湧くものの、しかしこの文章はただごとではない。……語彙とイメージがあまりに独特なので、一見すると異世界ファンタジーもしくは寓話的幻想小説のようだが、しかし実はその背後に綿密なSF設定があることがしだいに明らかになってくる〉

 この作品を表題作とする連作短編集は、2013年8月末に創元日本SF叢書から刊行。たちまち絶賛を集め、「ベストSF2013国内篇」では、過去最高の663点を記録してダントツ1位。さらに第34回日本SF大賞を受賞し、2010年代を代表する日本SFとなった。今週出たばかりの創元SF文庫版は、円城塔が帯裏に「地球ではあまり見かけない、人類にはまだ早い系作家」とのコメントを寄せているほか、イラストレーターでもある著者自筆の細密な1ページ挿画が十数点収録されているから、異様なイメージはビジュアルでも確認できる。往年のSF読者なら、筒井康隆の初期の代表作「幻想の未来」を思い出してもらえば、なんとなく雰囲気がつかめるかも。読みこなすのは骨だが、挑戦する値打ちは充分。今の日本SFの極北をどうぞ。

(書評家、翻訳家)

=2015/07/24付 西日本新聞朝刊=

※〓は魚へんに単の旧字体

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