<37>”司政官”の悲哀【消滅の光輪】

西日本新聞

 きのう紹介したTOKON7(1980年の日本SF大会)の仮装企画で、あとひとつ、大ウケだった一発芸はこんなの。前輪だけしかない自転車を押してステージに出てくると、おもむろに一言、「消滅の後輪」。

 これはもちろん、眉村卓の大作『消滅の光輪』(現在は創元SF文庫)のこと。SFマガジンで連載がスタートしたのは76年。眉村ファンの高校生だった僕は、全33回に及ぶ大河連載を、毎号、楽しみに読んでいた。もともとは3回分載だったのが10倍以上にふくらんだらしいが、79年に出た単行本は、星雲賞、泉鏡花文学賞を受賞。名実ともに眉村SFの代表作となった。

 人類が銀河にあまねく広がった未来。連邦軍による軍政が無用の軋轢(あつれき)を生み、植民惑星に数々の問題を引き起こしたため、連邦経営機構は方針を変更。“司政官”と呼ばれるエリート官僚を派遣して、先住種族と植民者との関係の調整や植民世界の秩序維持に当たらせる新制度を発足させた。司政官は単身派遣され、人間の部下を持たないかわり、優秀なロボット官僚が部下として補佐する。

 ……というのが『消滅の光輪』を含む《司政官》シリーズの基本設定。本書の主人公は、惑星ラクザーンに派遣された司政官、マセ・PPKA4・ユキオ。ラクザーンの太陽は近く新星化する。そのため、惑星の全住民を他の惑星に避難させなければならない。新任のマセは、この空前の使命に淡々と立ち向かう。だが、この時代、司政官制度は疲弊し、かつての圧倒的な権威を失いつつあった……。

 この設定なら、ふつうは、“実現不可能と思われる困難な課題に挑むプロジェクトもの”を想像するだろうし、事実その通りの内容ではあるのだが、モノローグを多用する内省的な語り口には、むしろ、上(連邦経営機構)と下(住民)の間で板挟みになる中間管理職の悲哀が満ちている。エリート中のエリートを主役にしても全然エリートっぽく見えないのが眉村SFの特徴。「半沢直樹」的な一発逆転の爽快感とは対極にある(一種の)サラリーマン小説とも読める。

(書評家、翻訳家)

=2015/07/28付 西日本新聞朝刊=

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