【生きる 働く 第7部】ブラックバイト 学生は今<1>生活のため 辞められず

西日本新聞

 酔客たちのカウントダウンが大きく響く。「3、2、1…」
 
 大学生俊郎さん(22)=仮名=の2015年は、アルバイト先の厨房(ちゅうぼう)で幕を開けた。福岡市の居酒屋チェーン店。年をまたぐ2週間の連続出勤は、1日12~13時間にも及んだ。さらに追い打ちを掛けたのが、ここ数日の「出張」だった。

 「え、今から熊本ですか」。年末、福岡市の店で仕込み作業中だった俊郎さんは、社員に聞き返した。熊本市内の支店が人手不足なのだという。午後8時に着いたとして戻るのは明日。「着替えはどうしよう」と思いつつ列車で向かった。

 支店には他県から来たバイトもいた。「俺は16連勤。うちは30連勤って人もいるよ」「マジっすか」。翌朝5時まで働き、近くのインターネットカフェで寝入った。「もう1日」と頼まれ、午後5時からさらに12時間。翌朝の始発で福岡に戻り、三が日まで勤務は続いた。

 本当はこの時期、就職に備えて運転免許を取る予定だった。店長にも「勤務を減らして」と伝えていたが、「人手が足りない」といつも聞き流されてしまう。12月の勤務は結局、一般的なフルタイム社員並みの合計180時間を超えていた。

 希望していないシフトに入れられた(21・3%)▽1日6時間を超えて働いても休憩時間なし(14・2%)▽残業代が時間通りに支払われなかった(14・1%)…。

 弁護士らでつくる「ブラック企業対策プロジェクト」(東京)が昨年実施した学生アルバイト全国調査によると、バイトで何らかの不当な扱いを経験したことのある学生は66・9%に上る=図参照。

 不当な扱いに対し、俊郎さんは「自分が休めば店が回らないから仕方ない」と気遣う。だが、働き続ける最大の理由は「お金のため」だ。高校時代に父親が失業して仕送りはない。学費と生活費の全てを、バイト代(月12万円程度)と月8万円の奨学金で賄う。「次の仕事がすぐ見つからなかったら」と思うと、簡単には辞められない。

 俊郎さんのように必要に迫られて働く学生は少なくない。同調査では、バイトの目的は「生活費を稼ぐため」が43・6%、「学費を稼ぐため」が15・9%だった。

 下宿生への仕送り額が年々減っているというデータもある。全国大学生協連(東京)の調査では、ピークの1996年が月10万円を超えたのに対し、昨年は3割減の7万140円。仕送りゼロの学生は2・2%から8・8%に増えた。

 プロジェクトメンバーで中京大の大内裕和教授は「親の経済力低下を背景に、バイトを辞められない学生が増えている」と指摘する。奨学金の大半は貸与型で「将来の返還を心配して利用額を抑える学生もいる。学業に専念させ、教育の機会均等を支える役割を果たしていない」と訴える。

 俊郎さんの足元を見るように、店側は客が多いときは無給で残業をさせ、少ないと控室で1~2時間待たせる「サービス待機」もある。「熊本出張」や、他店に食材を取りに行った移動時間は給料が出るのか、社員に聞いてみたが「うーん」と言葉を濁された。「前に働いていたファストフード店でも同じような感じだったから、言ってもしょうがないのかな」

 俊郎さんの奨学金は一部利子付き。将来返還することを考えると、自炊などで節約して貯金したい。でも疲れて、コンビニ弁当と1本250円の栄養ドリンクについ手が伸びる。家だと寝てしまいそうで、ネットカフェで勉強する。赤く充血した目でつぶやいた。「完全に悪循環ですよね」

    ◇    ◇

 不法、不当な労働条件を強いるブラック企業の被害が、近年はアルバイトにも及んでいる。学生であることを尊重しない「ブラックバイト」。学生たちはなぜ辞めないのか、辞められないのか。背景を追った。


=2015/07/28付 西日本新聞朝刊=

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