<40>絢爛たる宇宙戦争【星界の紋章】

西日本新聞

 旧ハヤカワ・SFコンテスト最後の入選者は、第17回(1991年)の2人。言語を脳に移植することが可能になった未来を描く「夢の樹が接げたなら」(第2席)の森岡浩之と、妊婦だらけの街を舞台にしたSF設定の本格ミステリ「バルーン・タウンの殺人」(第3席)の松尾由美ですね。一方、日本SFはこの頃から〈冬の時代〉と呼ばれる長いトンネルに入り、ベストセラーが出てもSFとは呼ばれなかったり、商業的な成功に恵まれなかったりする困難な状況が2000年ごろまで続いた。

 そんな〈冬の時代〉ど真ん中の1996年に、ジャンルSFど真ん中の小説で場外ホームランを放ったのが森岡浩之。初の長編となる『星界の紋章』全3巻をハヤカワ文庫JAから書き下ろしで3カ月連続刊行、これが同文庫の新人作品としては異例の大ベストセラーになり、翌年の星雲賞を受賞。99年にはWOWOWでTVアニメも放送された。

 背景は、“平面宇宙”を利用した超光速航法によって人類が銀河にあまねく広がった遥(はる)かな未来。広大な人類世界のおよそ半分は“アーヴによる人類帝国”の支配下にある。アーヴとは、宇宙空間での生活に適応すべく遺伝子改造で生み出された種族。星間交易によって富を築き、強大な星界軍を背景に人類宇宙に君臨しているが、地上世界(有人惑星)の支配には興味を持たず、帝国貴族である領主を名代として派遣している。その覇権をよしとしない残り半分の人類が連合を結んでアーヴに戦いを挑んだことから始まる絢爛(けんらん)豪華な戦争絵巻が《星界》シリーズ。アーヴ皇帝の孫娘にあたるラフィールと、人類でありながら貴族にとりたてられた青年ジントの関係が軸になる。

 “星間帝国はいかにして可能か”という大時代なテーマに正面から挑み、エキゾチシズムあふれる遠未来の異文化社会をリアルに夢想したのがシリーズのポイント。そのために、アーヴ語のルビが駆使され、抜群の異化効果をあげている。

 続編にあたる『星界の戦旗』は全5巻で第1部が完結。他に、短編集『星界の断章』が3冊出ている。

(書評家、翻訳家)

=2015/07/31付 西日本新聞朝刊=

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