【生きる 働く 第7部】ブラックバイト 学生は今<4>労働者の権利 学び守る

西日本新聞

労働教育の講義を真剣に聴く長崎大の学生たち 拡大

労働教育の講義を真剣に聴く長崎大の学生たち

 給与明細に並んだ数字に目を疑った。「こんなはずはない。いくら何でも少なすぎる」

 大学生の香穂さん(19)=仮名=は、福岡市の飲食店でアルバイトをしていた1年前を振り返った。当時高校3年生。毎週土日の午前10時から深夜12時まで、息つく間もなく働いた。労働基準法では1日8時間を超えて働く場合、60分の休憩が認められているが、そんなものはなかった。「給料、間違ってませんか」

 「あ、ごめん」。店長は軽く非を認めた。「でもさ、高校生(18歳未満)は1日8時間までしか働かせちゃいけないから、その分しか出せないんだよ」。明細をよく見ると、休憩分はしっかり引かれて、1日7時間の給料しか出ていなかった。「来月以降にちょっとずつ上乗せするから」。法を守るなら、18歳未満を午後10時以降に働かせることもできないはずだが、香穂さんは知るよしもなかった。

 しばらく我慢し、月の途中でバイトを辞めた。自分の都合で辞めたからと、半月分の給料はもらわずじまい。まるで詐欺に遭った気分だ。「親には迷惑を掛けたくなかった。どこに相談したら良かったんでしょう」

 「何かおかしいと思っても声を上げられない。労働法の知識がなく、声を上げていいことにさえ気づかない学生もいる」

 連合非正規労働センター(東京)の村上陽子総合局長(48)はそう嘆き、ブラックバイトがはびこる一因だと指摘する。

 学生だけではない。

 連合が昨年、18~25歳の労働者(学生を除く)に行った調査によると、残業代不払いやパワハラなど職場のトラブルに対して約36%が「何もしなかった」という。理由は「みんなも我慢していると思った」(約29%)「どうすればいいか分からなかった」(約20%)など。全体の約7割が「働く上での権利・義務を学校教育でもっと学びたかった」と答えている。

 労働者の権利を守るには知ることから-。村上さんは今月、長崎大(長崎市)の講座で、ブラックバイトなど非正規労働の実態を紹介し、労働組合の役割について解説した。

 この講座「現代の労働と労働組合」は、同大の福沢勝彦教授(57)の呼び掛けで、連合長崎(同市)が企画した。経済学部の約500人を対象にした単位科目で、昨年から行っている。労使それぞれを代表する講師が週替わりで話す。

 福沢さんは「経済学部の学生たちは将来、人を雇う立場にもなり得る。パワハラやセクハラなどをする側にならないよう、労使全体を見渡す視点を培ってほしい」と願っている。

 講座を受ける真也さん(19)=仮名=も、ブラックバイトの経験者だ。「時給800円」の求人広告を見て市内の居酒屋で働き始めたが、「研修」を理由に680円に下げられた。残業も多かったため辞める意思を伝えると、胸ぐらをつかまれ「人数が足りんやろ」と脅された。4カ月ほど働き、最後は「辞めます」と置き手紙をして逃げたという。

 それに対し、講座を一緒に受けている同級生(19)は「最低賃金ぎりぎりやん。夜10時以降は25%以上の割増賃金にせんといかんのに、それもなかったんでしょ。早く辞めればよかったのに」とあきれた。「でも入ってすぐは発言権ないし、何か言って嫌がらせされても困るし」と真也さん。2人は「バイトは先輩の紹介で探すか、働いている人に聞いて選んだ方がいい」という意見で一致した。労働法を学んでいるからこそ、何がおかしいか、どう対処すればいいかが見えてきた。

 就職活動に向けても、新たな視点が育っている。学生からは「離職率や育児休業の取得状況も確認したい」「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を大切にする企業を選びたい」などの声が上がる。労働人口が減り、企業は今後選ばれる側となる。学生が変われば労働環境も変わるかもしれない。 


=2015/07/31付 西日本新聞朝刊=

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