【生きる 働く 第7部】ブラックバイト 学生は今<5完>記者ノート 社会的損失は深刻

西日本新聞

 ブラックバイトの被害者探しは当初、難航した。福岡の行政機関や労働団体などに聞いても、大学周辺で学生たちに声を掛けても「あまり聞いたことがない」。取材断念も考えつつ「知人の知人」をたどるうちに、厳しい実態が見えてきた。被害がないのではなく、表面化していないだけだった。

 ブラックバイトなんて辞めればいいのに-。社会人の多くはそう考えるだろうが、学生には異なる思いもある。「経営が大変そうだから」「お世話になっているから」と不当な要求を拒否できない。「すぐ辞めると就職活動で不利になるかも」と心配し、「続けられない私に問題があるのでは」と自分を責める。被害を自覚すらしていない人も多かった。雇用する側は、学生の知識や経験不足、また責任感につけ込んでいた。

 ブラックバイトが招く社会的損失は計り知れない。一つは「教育の質」の低下だ。

 福岡のある大学教員は、少子化で大学が中退率に敏感になっていることから「学生が単位を落とさないよう予習復習の必要ない授業にする教員もいる」と明かす。学業よりバイトが優先される異常事態。ブラック企業対策プロジェクト(東京)も「課題を要求すると学生が離れていってしまう。質の高い授業が選ばれない実態は既にある」と警鐘を鳴らしている。

 学生の「働く意欲」も危機にさらされている。九州産業大(福岡市)の白井章詞講師は、キャリア教育で行ったアンケートで、ブラックバイト経験者のこんな記述を見つけた。「他のバイトもそうなのかと思うと、怖くてバイトを決められない」。白井さんは「バイトでも大変なのに、就職したら逃げられないと考え、働くことに尻込みする学生も出てきている」と懸念している。

 雇用側が法令を順守し、国も深刻な社会問題として対策を取るべきなのは言うまでもないが、学生側にもできる自衛策がある。雇用者の言うことをうのみにせず、働く権利や義務について自ら学ぶことだ。バイトを始める前に知り合いやインターネットを通じて口コミ情報を集めてみるのもいいだろう。

 そして不当な労働条件を押しつけられたら、1人で抱え込まず周囲に相談してほしい。厚生労働省のホットラインのほか、各県の労働局や労働基準監督署には「総合労働相談コーナー」(無料)もある。それがブラックバイトをなくす一歩にもなるはずだ。
 =おわり


=2015/08/01付 西日本新聞朝刊=

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