【傾聴記】高齢者の地方移住 「共助」の形成が不可欠

西日本新聞

「美奈宜の杜」で月1回開かれている朝市。住民同士の触れ合いの場であり、買い物の機会でもある 拡大

「美奈宜の杜」で月1回開かれている朝市。住民同士の触れ合いの場であり、買い物の機会でもある

 首都圏で介護の施設と人材の不足が深刻化するとして、民間の有識者会議などが提唱した「高齢者の地方移住」「日本版CCRC」が波紋を呼んでいる。元気なうちに地方に移住し、地域に溶け込んで最期を迎える。そんな構想は可能なのだろうか。かつて定年退職者の移住を呼び掛けた地域の今を通して考えた。

 福岡市から車で約1時間。福岡県朝倉市に「日本初のシニアタウン」を掲げた住宅街「美奈宜(みなぎ)の杜(もり)」がある。1996年の分譲開始から19年。全804区画の約75%が売れ、323世帯654人(今年5月末現在)が暮らす。平均年齢は60歳前後。127万平方メートルの丘陵地で、福岡県を中心に東京、神奈川、千葉、大阪などからの移住者が田舎暮らしを楽しんでいる。

 不動産開発の「西日本ビル」(福岡市)が米アリゾナ州のシニアタウンをモデルに開発、管理も手掛ける。管理事務所に介護福祉士の資格を持つライフパートナーなど約10人が常駐し、警備会社による24時間警備も導入。住民対象のサークルはテニスやマージャンなど約35種類に上り、陶芸窯、ゴルフ場、温泉なども備える。住民は月1万円の管理費を負担して、こうしたサービスを享受する。

 2001年に東京都から夫婦で移住した崎出みつさん(84)は9年前に夫を亡くして1人暮らし。昨年、体調を崩して緊急入院したが、ライフパートナーや民生委員に助けられた。今もグラウンドゴルフを楽しみ「来てよかった。できる限りここにいたい」と願う。

 開発当初からの住民には90歳を超える人もいる。妻を亡くして家事ができずに東京の子どもの元に戻った人、高齢者施設に移ろうと家を売る人も出てきた。自らも9年前に千葉市から移り住んだ民生委員の久々原民子さん(72)は「車がないと不便なので、住民同士で助け合いたい」と、単身者宅の訪問や配食などに力を入れる。

 管理する西日本ビルも敷地内に有料老人ホームを誘致し、地元の介護施設と連携。住民ボランティアの運転でスーパーなどを巡るバスの運行、月1回の朝市開催などで住民の共助関係を促すなど、高齢化対策を仕掛ける。住民でもある同社営業副部長の熊部幸則さん(57)は「われわれのような第三者が継続的に関わってきたから街を維持できている」と強調した。

 団塊の世代が定年退職を迎えた07年前後、全国各地でシニア世代の田舎暮らしを呼び込む施策が花盛りだった。その一つ、長崎市の「ながさき暮らし」推進事業は06年、同市内の伊王島町、西出津町などの市有地に宅地を造成し、県外在住者に30年間の定期で貸し出した。全15区画中14区画で東京、埼玉などからの移住者と契約が成立した。

 移住誘導という点では成功だが、市地域振興課は「移住者が地域行事に参加するなど、本来狙っていたように地域おこしに一役買っているかは不透明。若い世代の方が地域に歓迎されるのも確か」と打ち明ける。

 シニア世代の地方移住の成否は、地域に溶け込ませ、共助関係を育てる第三者の関与が鍵を握ることを実感した。現在、日本版CCRCを目指して高齢者の移住受け入れを先行的に検討する自治体では行政や大学などが核となっている。移住者に医療や介護の提供までを約束するなら、より幅広い住民を巻き込んだ息の長い取り組みが不可欠だ。

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【ワードBOX】日本版CCRC

 高齢者が健康なうちに地方に移住し、地域社会で暮らし、最終的に医療や介護サービスを受けられるような地域共同体。米国で普及しており、日本政府が日本に適した具体像を検討している。全国202自治体(九州31)が推進の意向を表明している。


=2015/08/06付 西日本新聞朝刊=

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