<45>”すこしふしぎ”の魔法【不思議のひと触れ】

西日本新聞

 きのう紹介したケン・リュウ「紙の動物園」のような、(藤子・F・不二雄が命名した)“すこしふしぎ”系の短編は、往年のアメリカSFにも珍しくない。そうした短編の名手が、超能力SFの古典『人間以上』で知られるシオドア・スタージョン。「あらゆるものの90パーセントはクズである」というスタージョンの法則でも有名ですね。もっとも、ご当人によると、それは法則じゃなくて啓示で、本来のスタージョンの法則は、「どんなこともつねに無条件でそうだとは限らない」だとか。

 それはともかく、スタージョンは、ごくふつうの平凡な人間に訪れる“すこしふしぎ”な瞬間を「不思議のひと触れ」と呼び、その体験によって変化する人間の姿を、独特の語り口でリアルに描いた。自分で編纂(へんさん)した短編集で恐縮ですが、河出書房新社《奇想コレクション》から出た『不思議のひと触れ』(現在は河出文庫)は、そうした短編を中心に全10編を収録する。

 表題作(別題「奇妙な触合い」)は、人魚の男を待つ人間の女と、人魚の女を待つ人間の男が、海岸近くの岩礁で出会う話。ふつうならコントにしかならないバカ話なのに、スタージョンの魔法の筆のひと触れが、それを運命的な奇跡のラブストーリーに変える。

 巻末の「孤独の円盤」も、やはり海辺で男女が奇妙な出会いを果たす場面で始まる。主役は、17歳のとき、小さな空飛ぶ円盤に接触された女性。衆人環視のセントラルパークで、てのひらサイズの金色の円盤が飛来し、頭上50センチほどのところに浮かんだ。やがて円盤は落下し、彼女のひたいにぶつかる。円盤はひとつのメッセージを彼女の脳に伝えたが、彼女はそれを誰にも話さなかった。なぜなら--と、こちらはもっと無茶(むちゃ)な話だが、にもかかわらず、孤独な人間の魂の叫びが痛切に胸に迫る。

 「もうひとりのシーリア」は、都筑道夫が怪奇小説のオールタイムベスト3に挙げた名作。他人の部屋に忍び込んで私生活を覗(のぞ)き見するのが趣味の男が、ある日、とんでもない光景を目にすることに……。

(書評家、翻訳家)

=2015/08/07付 西日本新聞朝刊=

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