<46>秘密の遊び場【愛はさだめ、さだめは死】

西日本新聞

 短編SFの名手と言えば、1968年に彗星(すいせい)のごとくデビューし(同時に書いていた4編を投稿したところすべて採用されたので、どれが真の第1作かよくわからない)、SF界に伝説を残したジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの名前も外せない。覆面作家だったティプトリーが数々のSF賞を受賞して脚光を浴びた70年代は、女性の活躍が目立ちはじめた時代。前回紹介したスタージョンは、「有望な新人はみんな女性作家で、例外はティプトリーだけ」と述べたほど。

 しかし77年、そのティプトリーの正体が、実はアリス・シェルドンという女性だと明らかになり、SF界に激震が走る。その10年後、71歳のアリスは、病気で寝たきりだった84歳の夫を射殺し、同じベッドの上でピストル自殺を遂げた。壮絶すぎる人生。幼少期は探検家の父と作家の母に連れられて世界を旅し、大戦中は写真解析士官としてペンタゴンの中枢で働き、戦後はCIAの設立も関わる。40歳代の後半になって大学に戻り、実験心理学の博士号を取得したころ彼女が発見した“秘密の遊び場”がSFだった。

 1973年のネビュラ賞に輝く「愛はさだめ、さだめは死」(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫SFの同名短編集に収録)は、人間がまったく出てこない異星生物SF。巨大な蜘蛛(くも)に似た語り手のモッガディートが、本能に抗(あらが)って愛に生きようとする姿を超絶技巧で鮮やかに描き出す。

 同じ短編集の「接続された女」(浅倉久志訳)は、人生に絶望して自殺を図った醜いヒロインが、(いわば)アイドルのゴーストとして甦(よみがえ)る話。絶世の美少女(アンドロイド)のデルフィに神経を接続し、世界的な大人気アイドルとして大衆を魅了する。が、彼女が恋をしたとき、破局が……。サイバーパンクのさきがけとも言われるヒューゴー賞受賞作。

 ちなみにこの短編集(原書77年刊)にはSF作家のロバート・シルヴァーバーグが序文を寄せ、ティプトリーが男性であることを論理的に“証明”している。のちに著者から「どうか気にしないで」と慰める手紙が来たという。

(書評家、翻訳家)

=2015/08/10付 西日本新聞朝刊=

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