【和食力】麹造り「子育てと同じ」 熊本・水俣市「緒方糀屋」 伝統製法を継承

西日本新聞

室蓋を手に出来上がった麹を確認する緒方信秀さん 拡大

室蓋を手に出来上がった麹を確認する緒方信秀さん

 ジャズが流れる店の奥には、広さ6畳に満たない半地下の木室(きむろ)がある。約1キロの麹(こうじ)が入った木製の室蓋(むろぶた)がびっしりと並ぶ。熊本県水俣市の「緒方糀(こうじ)屋」。「音楽があれば気持ち良く仕事ができる」と語る3代目の緒方信秀さん(56)が伝統的な麹造りを受け継いでいる。

 麹の寝床になる室蓋は水俣の方言で「モロブタ」。「機械任せではムラが出る」と発酵の状態を見極めながら手作業でほぐし、室蓋の位置を上下させる。温度と湿度は天井の通気口で調整する。麹を主に手入れするのは気温の落ち着く午前2~8時ごろになる。

 緒方さんと妻のまゆみさん(52)以外は立ち入れない木室には、最大300枚の室蓋を置く。生産規模は一度に最大300キロ程度と大きくないという。「自分が納得できる麹を造るにはちょうど良い規模。販売量を伸ばそうとは思わない」

 原料の米は地元産がほとんど。洗米して蒸し、麹菌(種麹)を混ぜ、4日目に出来上がると「タンポポの綿のような白い花が咲く」(緒方さん)。木室は甘いクリのような香りに包まれる。

 「みそや甘酒の味は8割が麹の出来に懸かっている。麹造りは手がかかるが、
子育てと同じで成長に喜びを感じる」

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 緒方さんの祖父満喜さんが、1890年ごろ麹造りを始めた。スギ材造りの木室は当時から。「国内の室はほとんどが石やれんが造りだが、木室だと木材が呼吸して湿度を上手に管理する。しょうゆやみそも木樽(だる)で造るとうまいでしょう」と昔ながらの木室にこだわる。

 使う道具も昔ながら。麹菌を混ぜ込んだ蒸し米を室蓋に移す前に発酵させるのは、わらを編んだむしろを使う。以前は九州でも作られていたが、今は東北の生産者から取り寄せる。出来上がった麹を室蓋からはがすのは、しゃもじを加工した竹べらだ。

 「仕事は勘が頼り」。20歳ごろ、父親の寿さん(2010年、81歳で死去)の背中を見て学んだ。寿さんの後について木室に入っても、言葉はなかった。発酵という微生物の営みが相手。改善点を自分で見つけ、独自に改良していった。

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 50年以上前の最盛期は市内に5、6軒の麹屋があったが、今は緒方さんの店だけ。客は地元や近隣の鹿児島県出水市などの農家が多い。大豆などの原材料を受け取り、麹と一緒にみそに仕込んで引き渡す。ほとんど個人向けという販売は年間数百件。福岡県などの数人のグループからまとめて注文を受けることもある。

 近年の麹ブームで新たな変化も感じる。若い母親たちが来店することが増えた。店頭に並ぶ数種類のみそを見て「造り方や原材料の違いは何ですか」と尋ねるようになった。「日本の風土にあった古来の発酵食品に関心が高まっている」

 明治から昭和にかけて活躍した水俣出身の言論人、徳富蘇峰は初代満喜さんとゆかりがあり、揮ごうした書を贈ったという。「天地悠々」。店ののれんに使われるこの4文字を、緒方さんは「世俗に惑わされず、自由に生きるという意味。麹造りにも通じ、父や私の生き方でもある」と説明した。

 ◇緒方糀屋=0966(63)2219。

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【ワードBOX】麹

 米、麦、豆などを蒸して、カビの一種である麹菌を繁殖させたもの。みそ、しょうゆ、酒などの製造に用いる。三十数種の酵素が含まれ「酵素の宝庫」といわれる。主な酵素のアミラーゼはデンプンを糖に、プロテアーゼはタンパク質をアミノ酸に、リパーゼは脂質を脂肪酸やグリセリンに分解する。麹菌には黄麹菌、しょうゆ麹菌、泡盛黒麹菌、紅麹菌などの種類があり、用途が異なる。


=2015/08/12付 西日本新聞朝刊=

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