<最終回>SF現在進行形【Self-Reference ENGINE】

西日本新聞

 毎日1編ずつSFを推薦してきたこの連載も、今日でめでたくゴール。ラストの50作目は、円城塔のデビュー単行本『Self-Reference ENGINE』(ハヤカワ文庫JA)を紹介する。きのう書いた伊藤計劃『虐殺器官』より1カ月早く、同じ《ハヤカワSFシリーズ Jコレクション》から2007年5月に刊行された。

 連作短編集的な構成なので、ストーリーはたいへん説明しにくいんですが、大ざっぱに言うと、巨大知性体と呼ばれる超高度AIのせいで時空が崩壊、大混乱のなか、どんどん物語が増殖してゆく。初恋の過去を失った親友のために多世界を股にかけてがんばる男の子の話が出発点になり、18の章(文庫版では20章)というか短編がゆるやかにつながる。蔵に眠る先祖伝来の箱(1辺1メートルの立方体)を年に一度ひっくり返す一家の話とか、死んだ祖母の家の床下から大量のフロイトが出てきて処理に困る話とか。題名(「自己参照機械」みたいな意味)はややこしいけど、くすくす笑ったり首をひねったりしんみりしたりする話の集合体なので、気楽にめくってみてください。

 『虐殺器官』同様、第7回小松左京賞の落選作だが(この回の同賞は受賞作なし)、結局この2作が「ベストSF2007」の1位を争い、伊藤計劃が1位、円城塔が2位。ともに日本SF大賞にノミネートされ、仲良く落選するも、のちに英訳され、本書は(伊藤計劃『ハーモニー』に続き)フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞した。

 本書出版の直前、円城塔は第104回文學界新人賞を受賞。以後はSF畑と純文学畑の両方で作品を発表し、11年、「道化師の蝶」で芥川賞を受賞。その会見の席で発表した通り、伊藤計劃が遺(のこ)したプロローグを書き継いで長編『屍者の帝国』を完成させ、同年8月に刊行した(今年10月、劇場アニメ公開予定)。8月末には久々の短編集『シャッフル航法』、9月にはSFマガジン連載をまとめた『エピローグ』が出る。そのあとは、文學界連載の『プロローグ』も待機中です。今年後半は円城塔ラッシュになりそうです。 

(書評家、翻訳家)

=おわり

=2015/08/14付 西日本新聞朝刊=

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