終戦 子どもたちは ~専門誌「児童心理」創刊号から 路上・施設生活 実態克明に

西日本新聞

1947年の「児童心理」創刊号の復刻版(左)と今年3月の1000号記念特別号 拡大

1947年の「児童心理」創刊号の復刻版(左)と今年3月の1000号記念特別号

 《これから世の中に育ち行く子どもたちを見ると、こころからすまない気がしてならない。彼らの将来のことを考えるとたまらない気がする》

 《日本の子どもは、もはやこれから戦争に勝つために一方に強制される必要はなくなった。子ども世界の自然をゆがませる強力な力の一つは少なくとも除去された》

 ある月刊誌の創刊号の前書きは、こんな痛切な反省と、希望から始まる。

 1947年1月。「児童心理」(金子書房)の創刊号が発行されたのは、終戦から約1年半が過ぎたころだった。

 今年3月、同雑誌が1000号発行を達成したのを記念し、19年前に復刻された創刊号が新聞社にも届けられた。

 終戦間もない当時の子どもたちの「心」には、どんな風景が映っていたのだろう。

 § §

 創刊号の特集は「児童生活の実態」。子どもたちの意識調査や、「浮浪児」(路上生活する子どもたち)のインタビューなど、貴重な報告がつづられている。

 空襲で家族を失っただけではなく、入所した施設や養子先から家出してきた子どもが、新聞売りや物乞い、靴磨きなどで生き延びる実態が報告された。中には、進駐軍に売春している少女も。施設で生活させるため、浮浪する子どもたちを収容する「刈り込み」と、施設からの子どもの脱走が繰り返されていることも明らかにされた。

 46年7月には、東京都内の国民学校3~6年生924人に、将来の夢や理想の人物を尋ねたアンケートも行われた。将来希望する職業では、先生、会社員、商人、洋服屋などが多かった一方、それまでの調査で男子の過半数を占めていた「軍人」はゼロに。理想とする人物では、「マッカーサー(食糧を送ってくれるから)」と「天皇陛下(国民のことを思ってくださるから)」に回答が集中した。

 別の国民学校の読書調査では「のらくろ」「アンデルセン童話」「初等英語」などが、上位20に名を連ねた。軍国主義の本が1冊もなかったため、筆者が子どもの順応性に驚く記述もあった。

 戦後の遊びの実態調査では、男女ともに水遊びやかくれんぼなどが多かった。「近ごろ楽しいと思ったこと」という質問には、祭りや運動会などの回答が多い中、「白いご飯を食べた」といった回答もわずかに存在し、復興期の貧しい生活もうかがわせた。

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 「児童心理」は月刊・臨時増刊を含め、年間18回発行する専門誌だ。東京文理科大(現筑波大)の心理学研究室の教授たちが、たまたま大学の隣にあった金子書房から発刊した。創刊号のサイズは現在と同じA5判で、全58ページ、定価7円だった。

 編集委員代表を務める、深谷和子東京学芸大名誉教授(80)=児童臨床心理学・子ども調査=は、創刊号について「戦中は国が第一で、子どもの幸せは重要視されていなかったが、研究者たちは戦後間もないころから、子どもの幸せのためには実証研究が重要だと確信していた」と分析する。

 創刊号に携わった研究者たちは前書きで、こう続ける。

 《これからは、子どもの世界をあるべき本来の姿へ戻し、その中で豊かな、生き生きとした、科学性のある子どもの文化に培ってやらなければならない》。子どもの心をしっかり見つめ、ありのままの姿を明らかにしていく。子どもの心がないがしろにされた戦争の時代と決別し、のびのびと生きられる社会を目指す決意だろう。《このことは、われわれ日本の大人の義務である》


=2015/08/15付 西日本新聞朝刊=

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