【和食力】麹普及へ「種」造り 福岡・椛島商店 自家製みそセット販売

西日本新聞

麹を造るのに用いる種麹。原料の千分の1の量を混ぜる 拡大

麹を造るのに用いる種麹。原料の千分の1の量を混ぜる

実験室のような部屋で種麹を培養する椛島恵一さん 農産物販売所で買った麹と大豆でみそを仕込む竹内太郎さん

 テーブルの上に試験管やフラスコが並び、さながら実験室だ。和食に欠かせないみそやしょうゆの醸造に用いる麹(こうじ)のもと、種麹がここで生まれる。

 福岡県みやま市の椛島商店は全国でも十数軒しかないという種麹を造っている会社だ。「自家培養を始めて120年。現在も昔ながらの造り方です」。4代目社長の椛島恵一さん(69)が胸を張る。

 長年受け継ぐ麹菌は冷凍庫に保管している。種麹造りはシャーレに麹菌を植え付けるところから始まる。雑菌が混じらないようにガラスケースのような無菌ボックスで作業する。シャーレで発芽した麹菌は、蒸し煮した米を入れたフラスコに移して培養する。

 培養した麹菌を原料の米や麦に混ぜ、麹造りと同じように麹室(むろ)で繁殖させる。サウナ室のような麹室は100%に近い湿度と室温38~39度を維持。「空気のよどみが大事」(椛島さん)という。約1キロの麹が入る木製の室蓋(むろぶた)で繁殖させる。菌糸を盛んに伸ばすピーク時は40度に達するため、換気や蓋の位置を替えて調整する。

 白色の菌糸は米や麦の表面を覆い、内部にも食い込む。通常の麹造りの倍の6日間繁殖させ、これを天日干しすれば完成だ。

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 みそ、しょうゆ、みりん、酢、酒。いずれも和食には欠かせない。麹菌というカビを操り、これらを生み出した先人の知恵に頭が下がる。椛島さんは日々の作業で先人が培ってきた多くの工夫を実感、「歴史とそれがもたらす産物を背負っている」と自覚する。

 麹文化を引き継ごうと30年以上前から、気軽に造れる自家製みそセットの普及に取り組む。熟成に適した塩分を配合した「塩切り麹」と、手間のかかる大豆の煮つぶしを合わせた商品だ。最初は母千枝子さん(2010年、85歳で死去)が、現在は妻雅子さん(65)がみそ造りの指導に各地を回る。

 保育園や女性グループらが毎年、みそ造り教室を開くなど輪を広げている。要ともいえる商品となり、秋口には麹造りが間に合わないほどで、全国から引き合いがあるという。

 「毎日おいしくいただいています」。手紙などに記された消費者の感想は「わくわくするほどうれしい」。椛島さんは「日本ならではの麹菌を使える日本人の特権」に感謝する。

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 近年の塩麹ブームもあって麹への関心は広がっている。「現在ならノーベル賞もの。どうやってみそやしょうゆのような調味料を生み出したのか、考えると不思議です」と福岡市西区の大学院生、竹内太郎さん(27)は麹の「奥深い世界」にはまっている。

 甘い物が食事代わりで、低血糖症と診断されたことなどから自炊を始め約8年。塩麹は魚や鶏肉を焼く前に漬け込み、野菜炒めなどにも加える。最近、みそも仕込む。ぬか漬けをつくるようになって「手のすべすべ感が違う」。竹内さんはぬか床の麹パワーを文字通り肌で感じている。

 竹内さんにとって、麹は無くてはならない存在。「蔵の中で時間をかけて菌と一緒に調味料を造る麹文化は格好いい。世界にアピールできるアートだと思う」

 ◇椛島商店=0944(63)3545。

 ●麹の歴史

 奈良時代の「播磨国風土記」の麹を使った酒造りに関するものが最初の記述とされる。日本醸造学会は2006年、「古来わが国の醸造をはじめ、いろいろな食品に用いられており、豊かな食文化に貢献してきた」として麹菌を「国菌」に認定した。


=2015/08/19付 西日本新聞朝刊=

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