【ふるさとの守り人】<2>出て行きたくないけれど

西日本新聞

自分でつくった資料館の中で思い出を語る坂本裕明さん 拡大

自分でつくった資料館の中で思い出を語る坂本裕明さん

「後ろ髪を引かれる思いで集落を出た」と語る佐藤カヨさん

 木漏れ日に、鳥のさえずりが響く。大分市の山奥、45年前に無人になった辻集落。週5日ほど通って草刈りなどに励む出身者の坂本裕明さん(64)も、今は車で5分ほど、近くの別の集落に住んでいる。

 「本当は辻集落に住みたいよ。でも住めないよ」

 一番のネックは水道。辻集落では湧き水を生活用水にしていたものの、山頂にあるため水が枯れやすく、集団移転の大きな一因となった。

 この春、辻集落の近くで別の集落がまた一つ、幕を閉じた。

 名を「石塚」という。約200年前は19世帯約100人が住んでいたが、一戸また一戸と減り、最後まで残っていた高齢の男性も市外へ移っていった。

 「とうとう誰もおらんごとなった」。市内の施設で暮らす佐藤カヨさん(81)は顔を覆う。佐藤さんは6年前に石塚集落を出た。食材一つ買うにも車が必要で、足腰が弱って生活に限界がきたからだ。

 結婚した当時は12世帯あった。子どもは3人。夫と少しずつ農道を延ばし、自給自足で何でも育てた。夫の家を守る覚悟で結婚したのに、集落から人が減り、交通手段もなく、出て行かざるを得なかった。

 「ご先祖さまが立派に何もかんも築いてくれていたのに。申し訳ない、申し訳ない」。後ろ髪を引かれるように集落を出た後も、朝晩欠かさず自室で位牌(いはい)に手を合わせる。

    §   §

 石塚集落が消えたのと、同じこの春。

 4月16日、JR九州が開発した大分市の大分駅ビル「JRおおいたシティ」が、開業した。地上21階、地下1階建てに計224店。市は約690億円を投じて駅南の土地区画整理を行うなど力を入れる。

 大分市全体の人口は、1970年に約25万8千人。市町村合併もあり、2015年には約47万8千人へと2倍近くに増えた。一方、坂本さんが住んでいた辻集落を含む河原内地区の人口は、1125人から258人へと4分の1以下に減っている。

 市も過疎地対策に無策だったわけではない。保育所の通園費補助、市道の優先改良、防犯灯設置などへの補助…。河原内地区にはプールや陶芸施設もつくった。ただ、水道未整備地区の河原内地区まで水道管を整備するには、約20億円が必要となる。「どこまで、どんなバランスで皆さんから預かった税金を使うべきか…」。市の職員も苦悩する。

 国は「東京への人口流出を防ぐダム機能を目指す」として、店や公共施設、病院などの都市機能を地方都市の中心部に集める「コンパクトシティ(集約都市)」施策に本腰を入れだした。ヒトやカネなどの資源が限られる中、1カ所にまとめた方が効率的だからだ。

 国土交通省の推計によると、2050年には居住地域の2割が無居住化するとみられている。役場や支所から距離が離れた地域ほど人口が減少。無居住化、低密度化する土地の9割が、現在、農業や林業の用地として使われている場所だという。

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 「集約する」ということは、どこからか、人や資源が奪われるということだ。強制でなくても、不便になれば人は出て行かざるを得なくなる。

 坂本さんはふに落ちない。「出て行くのが利口と分かっていても、果たしてそれでええんかなぁ。人間の心がなくなりはしないか」


=2015/08/26付 西日本新聞朝刊=

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